本研究は,企業会計審議会(BAC)によるIFRS適用問題を社会・経済政策の一環と捉え,2008年~2015年の間のBACによる強制適用の推進という政策形成から任意適用の促進という政策転換に至る一連のプロセスを対象に,新制度論における制度の形成・変化のフレームワークを用いて,その説明を試みるものである。 2022年度は,「2011年~2012年の間,BACの強制適用推進の回避は,どのようにして展開されたのか?それはなぜか?」と「2013年以降,BACの任意適用増加という政策の転換は,どのようにして展開されたのか?それはなぜか?」について検討を行った。これらの研究成果については,今後,国内外の学会にて報告し,学術誌への投稿を行う予定である。なお,本研究の分析視角である,制度の形成・変化のフレームワークの会計規制研究への適用可能性を検討した研究論文「会計規制研究における漸進的制度変化の理論の適用可能性」が2023年3月に雑誌『會計』にて公表されている。 本研究では,上記フレームワークにもとづいて導入対象制度を「制度運用の裁量性」と「拒否権の可能性」という2つの観点から分析し,導入制度の帰結を説明している。そこで得られた結論は以下のとおりである。当初,会計の国際化の必要性を認識していたBACの「拒否権の可能性」は低かったが,国際基準と日本基準との間の乖離を認識していた彼らの「制度運用の裁量性」に対する懸念からコンバージェンスの推進に取り組むことになった。その後,コンバージェンスの進展により「制度運用の裁量性」に対する懸念が低下したことで,BACは強制適用の推進に舵を切った。しかしながら,米国の国際基準に対するスタンスの変化を受け,BAC内で強制適用に対する疑問が生じ,「拒否権の可能性」が高まったため,強制適用への回避に向かい,代わりに任意適用の促進という政策転換がなされたのである。
|