研究課題/領域番号 |
18K01918
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研究機関 | 青山学院大学 |
研究代表者 |
矢内 一利 青山学院大学, 経営学部, 教授 (10350414)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | ラチェット / 戦略特性 / 経営者予想利益 / 受身型 |
研究実績の概要 |
2018年度は、まず経営戦略論と予算管理または企業業績との関係について検証した実証論文のレビューを行った。具体的には、「防衛型」、「探索型」、「分析型」、「受身型」という戦略タイプと予算管理または企業業績との関係について、米国を中心とした実証研究のレビューを行った。また、決算短信における予想利益(以下では「経営者予想利益」とする)の設定に関する実証研究のレビューや、予算のラチェットと経営者予想利益のラチェットに関する実証研究のレビューも行った。 以上の先行研究のレビューから、受身型の特性が強まると報告利益管理が行われやすい可能性が判明した。これをもとに、報告利益管理の観点から、受身型の特性が他の戦略特性と異なるかどうかについて確認することとした。まず、過去に実施した「経営目標(KPI)と予算の設定及び業績予想に関する産学協同研究」による質問表調査のデータを用いて、企業の戦略諸特性を推定した。その上で、各戦略特性と報告利益管理との間の関係について実証分析を行ったところ、受身型の特性が強まると、他の戦略特性とは異なり、報告利益管理を行う傾向があることが判明した。加えて、東証1部・2部上場企業の財務データと照らし合わせて、戦略特性と報告利益管理との関係について分析を行ったところ、受身型の特性が強まると報告利益管理を行う傾向があることが見出された。 以上の検証の結果については、2018年5月30日にイタリアのミラノで行われたEuropean Accounting Associationの41st Annual Congressで発表を行った。また、イタリアのヴェネツィアで2018年6月30日に行われた9th Conference on Performance Measurement and Management Controlにおいても、検証結果の発表を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
「研究実績の概要」で記したように、質問表調査のデータを用いた戦略諸特性の推定はほとんど終了している。また、戦略特性と予算管理または企業業績との関係について、米国を中心とした実証論文のレビューはおおむね終了している。ただし、経営戦略論や予算設定に関する文献の探索と、ラチェットや経営者予想利益の設定に関する実証研究のレビューをさらに行っていく必要があると考えられる。 加えて、既に質問表調査のデータと東証1部・2部に上場企業の財務データを用いて、各戦略特性と報告利益管理とのの関係について検証を行っている。この検証により、実証分析のためにある程度のサンプルが確保できることも確認済みである。ゆえに、戦略諸特性と経営者予想利益のラチェットとの関係の実証分析を行うことについては大きな問題はないと考えられる。 以上のことから、本研究課題はおおむね順調に進展していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
1年目で行った先行研究のレビューと実証研究をもとに、4つの戦略特性に応じて経営者予想利益のラチェットが異なるのかどうかについての探索的な実証分析を、東証1部・2部に上場している企業の財務データを用いて行う予定である。この実証分析に際しては、経営者予想利益への予算の反映度などの質問票調査の結果を考慮し、間接的に予算のラチェットについても検証を行う予定である。検証に際しては、受身型の特性を中心に分析を行うことを考えている。 実証分析の結果については、国内や海外の学会で報告を行うことを予定している。その上で、学会で収集された意見のフィードバックによって、追加的なインタビューや実証分析を行い、実証分析の結果や理論構築について検討を重ねていく。これにより、精緻な理論の構築を行うことが出来ると考えられる。
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