研究課題/領域番号 |
18K01918
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研究機関 | 青山学院大学 |
研究代表者 |
矢内 一利 青山学院大学, 経営学部, 教授 (10350414)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | ラチェット / 戦略特性 / 経営者予想利益 / 報告利益管理 / 受身型 |
研究実績の概要 |
2019年度は、「受身型」、「防衛型」、「探索型」、「分析型」という4つの戦略タイプと企業業績・報告利益管理との関係について検証した実証論文のレビューを引き続き行った。特に、事業戦略をうまく進めることができない状態にある「受身型」と企業業績・報告利益管理との関係について、実証研究のレビューを行った。あわせて、会計的裁量行動または実体的裁量行動による報告利益管理の実証研究についてもレビューを行った。 2018年度では、2015年度に実施したアンケート調査「業績管理と業績予想に関する実態調査」(以下では「2015年度産学共同研究調査」とする)の回答データをもとに分析を行い、受身型の特性が強まると報告利益管理が行われやすい可能性が見出された。2019年度では、各戦略タイプの特性と報告利益管理との関係について、特に受身型の特性が強まると会計的裁量行動または実体的裁量行動による報告利益管理の傾向が強まるかどうかについて、探索的な分析を行った。まず、2015年度産学共同研究調査の回答データを用いて、企業の戦略特性を推定した。次に、東証1部・2部上場企業の財務データと照らし合わせて、受身型の特性と報告利益管理との関係について相関分析と回帰分析を行った。報告利益管理の金額は先行研究に基づき、会計的裁量行動と実体的裁量行動による報告利益管理額の推定をそれぞれ行った。あわせて、他の3つの戦略タイプの特性と報告利益管理との関係についても相関分析と回帰分析を行った。 分析の結果、受身型の特性が強まると、会計的裁量行動による報告利益管理が行われやすいことが判明した。また、受身型の特性と売上高操作による実体的報告利益管理との間に有意な正の関係がある可能性も示唆された。他の戦略タイプについては、その特性が強まっても報告利益管理の傾向が強まることは、ほぼ見出されなかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
「研究実績の概要」で記したように、2015年度産学共同研究調査の回答データを用いた各戦略タイプの特性の推定は終了し、財務データを用いた戦略特性と報告利益管理との関係の実証分析も行っている。しかし、先行研究のレビューでいまだに不足している部分がある。特に、経営戦略論や予算設定に関する文献の探索と、ラチェットや経営者予想利益の設定に関する実証研究のレビューは、今後も行う必要があると考えられる。また、戦略諸特性と経営者予想利益のラチェットとの関係の実証分析にまだ取り掛かれていないので、研究の進捗状況はやや遅れていると言える。 2015年度産学共同研究調査の回答データと東証1部・2部上場企業の財務データを用いて、各戦略特性と報告利益管理との関係についての検証は既に行っており、実証分析のためにある程度のサンプルが確保できることも確認済みである。ゆえに、戦略諸特性と経営者予想利益のラチェットとの関係の実証分析を行うことについては大きな問題はないと考えられる。 以上のことから、本研究課題はやや遅れていると言える。
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今後の研究の推進方策 |
1年目と2年目に行った先行研究のレビューと実証分析の結果をもとに、まず2015年度産学共同研究調査の回答データを用いて、予算のラチェットが生じているかを見ていく。あわせて、戦略特性とラチェットとの相関についても、2015年度産学共同研究調査の回答データを用いて分析を行う。そのうえで、東証1部・2部上場企業の財務データを用いて、4つの戦略特性に応じて経営者予想利益のラチェットが異なるのかどうかについて、探索的な実証分析を行う予定である。これらの実証分析に際しては、受身型の特性を中心に分析を行うことを考えている。これは、先行研究から、事業戦略をうまく管理できていない受身型の特性が強まると、他の戦略タイプとは異なる分析結果になることが考えられるためである。2018年度と2019年度に行った実証分析の結果からも、受身型の特性を用いた分析結果は、他の戦略タイプの特性を用いた分析結果とは異なることが考えられる。 実証分析の結果については、国内の学会で報告を行うことを予定している。また、国内や海外の雑誌に投稿することも予定している。さらに、2019年度に完成したワーキング・ペーパーに対するコメントを反映させ、かつ学会で収集された意見をフィードバックすることによって、追加的な実証分析を行い、理論構築について検討を重ねることを予定している。これにより、精緻な理論の構築を行うことが出来ると考えられる。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額が生じたのは、3月初旬に参加を予定していた日本経済会計学会第5回AEAJ Workshop(沖縄国際大学)が中止になり、旅費として使用を予定していた金額分が使えなくなったためである。 2020年度は、この次年度使用額を主に人件費・謝金として利用する予定である。
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