研究課題/領域番号 |
18K01918
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研究機関 | 青山学院大学 |
研究代表者 |
矢内 一利 青山学院大学, 経営学部, 教授 (10350414)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 戦略タイプ / 予算(業績目標) / 経営者予想利益 / ラチェッティング / ラチェット効果 |
研究実績の概要 |
2022年度は、Miles and Snow(1978)が唱えた「防衛型」と「探索型」という2つの戦略タイプの選択が、それぞれ利益目標である予算の「ラチェッティング」にどのような影響を及ぼすのかについて検証を行った。検証に際しては、企業が公表する決算短信における予想利益(以下では「経営者予想利益」とする)を予算の代理変数として用いた。 また、検証に際しては、分析対象とした企業が選択した戦略を、公開財務データを用いて抽出した。具体的には、Bentley et al.(2013)に基づき、①売上高販管費率(=t期の販売費及び一般管理費÷t期の売上高)、②売上高従業員比率(t期末の従業員数÷t期の売上高)、③売上高成長率(=(t期の売上高-t-1期の売上高)÷t-1期の売上高)、④直近の5期における期末従業員数の標準偏差、⑤売上高研究開発費比率(=t期の研究開発費÷t期の売上高)、⑥有形固定資産集約度(t期末の有形固定資産÷t期末の総資産×-1)という6つの変数を用いて、防衛型戦略と探索型戦略を選択した企業をそれぞれ抽出した。その上で、予算と関連が深い経営者予想利益のラチェッティングに企業の選択する戦略タイプがどのような影響を与えるのかについて、先行研究で用いられたラチェッティングのモデルをもとにして検証を行った。検証の結果、防衛型戦略を選択した場合には経営者予想利益のラチェッティングの存在が確認されなかったのに対し、探索型戦略を選択した場合にはラチェッティングの存在が確認された。また、ラチェッティングの程度は防衛型戦略を選択した場合よりも、探索型戦略を選択した場合の方が大きいことが判明した。 以上のことから、間接的ではあるが、防衛型戦略と探索型戦略の選択が予算の設定に影響を与えることが判明した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2022年度は、「研究実績の概要」で述べたように、Bentley et al.(2013)に基づき、質問票調査の結果を用いた分析を行う前に、防衛型戦略または探索型戦略を選択した企業を公開財務データを用いてそれぞれ抽出し、分析を行った。 今後は、Miles and Snow(1978)が唱えた企業の戦略タイプである分析型または受身型を選択した企業の抽出を行う必要がある。分析型戦略を選択した企業については、Bentley et al.(2013)に基づき、公開財務データを用いて抽出を行って分析を行う予定である。 受身型の特性を持つ企業は、いわゆる「ゾンビ企業」に近いと考えられる。ゾンビ企業とは、生産性や収益性が低く、市場から退出すべきにもかかわらず、金融機関や政府からの支援により事業を継続している企業のことをいう。受身型戦略を選択した企業は戦略がうまく機能せずに倒産へと至る可能性があり、ゾンビ企業にいたる前の状態にあるという推測がなりたつ。国際決済銀行(BIS)ではインタレスト・カバレッジ・レシオが3年連続1以下の場合、ゾンビ企業と識別している。清水・田村・矢内(2022)による質問票調査のデータを利用した分析では、受身型の特性が強いほどインタレスト・カバレッジ・レシオが低下し、ゾンビ企業の傾向が強まることが判明している。これらを踏まえて、インタレスト・カバレッジ・レシオを取り入れることで受身型戦略を選択した企業の抽出を行った上で、公開財務データと質問票調査の結果を用いて、受身型戦略の選択が予算のラチェッティングに及ぼす影響についての分析を今後行う必要があると考えられる。 以上のことから、公開財務データを用いた分析も引き続き行う必要があるため、本研究課題の進捗はやや遅れていると言える。
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今後の研究の推進方策 |
2022年度は、Miles and Snow(1978)の戦略タイプを公開財務データを用いて抽出を行う分析が中心となっていた。防衛型戦略・探索型戦略・分析型戦略を選択した企業を抽出する手法については、先行研究でもいくつかの手法があげられている。よって、それらの手法を用いた分析を補足的に行う必要がある。さらに、先行研究をもとに新しい推定手法を用いることも必要と考えられる。 受身型を選択した企業の抽出については、インタレスト・カバレッジ・レシオを取り入れた手法を検討した上で、今後の分析に用いることを考えている。また、他にも受身型戦略を選択した企業を抽出する手法としては、Anwar and Hasnu(2017)等の手法を用いた検証を行う必要がある。加えて、受身型戦略を選択した企業を抽出する手法については、先行研究を元にして新たな手法を検討する必要があると考えられる。そのためには、実証研究だけでなく、経営戦略論に関する文献・論文を新たにレビューする必要があると考えられる。以上の公開財務データを用いた分析を行った上で、質問票調査の結果を用いた分析もあわせて進めていくことを考えている。 検証結果については、国内学会での発表やワーキング・ペーパーの公表を行った。2023年度は、アメリカ会計学会(AAA)学会やヨーロッパ会計学会(EAA)での発表、国内・海外への論文誌への投稿を行うことが目標となる。学会で収集された意見をフィードバックして、追加的な実証分析を行い、理論構築について検討を重ねることも予定している。なお、現在は国内の論文誌への投稿を目指して、論文の執筆を行っている。
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次年度使用額が生じた理由 |
2022年度は本研究課題に直接関連する論文の執筆を完了することができず、海外の雑誌に投稿する際に必要な英文校閲費やコピー代等の雑費、海外の学会への参加費等が生じなかった。また、参考とした文献や分析に用いたデータは昨年度までのもの引き続いて用いたため、物品費等も生じなかった。 2023年度は、新型コロナウイルスの流行の状況により不確定な部分が多いが、残額はコピー代等の雑費や物品費に使用する予定である。研究の時間は2022年度とそれほど変らない見込みなので、使用することは充分可能であると考える。
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