研究実績の概要 |
本研究は、統合報告の機能を理論的に明らかにしたうえ、ケーススタディや内容分析などを通じて統合報告の機能を解明・検証することを目的として、研究を進んできた。具体的には、まず、2018~2019年度において、統合報告に関する理論研究を行い、次のような課題について研究成果を得た。①「証券市場の変容と統合報告の長期的意思決定有用性」(投資者からの見方)について、Eccles et al(2011)、Fischer& Sterzel(2010)等から実証的知見が得られた。②Ricceri(2008)の議論を参考に、「レピュテーション促進の戦略的ツール」(マネジメントからの見方)としての統合報告の役割と開示例を提示した。③「非財務情報開示の役割」(ステークホルダーからの見方)について、シグナリング理論と正統性理論の非財務情報開示への適用を論及した。
2020年度において、IIRCの最新動向、およびコロナ禍が統合報告書に与える影響を検討した。IIRCが2021年1月に公表された「統合報告フレームワーク(改訂案)」では統合報告書の主要な利用者を依然として「財務資本提供者」と定義しており、パンデミックが世界のビジネスをより多様化に変化させ、多様な資本に基づいた考えに対するニーズが以前にもまして緊急となった(IIRC, 2020)。
2021~2022年度は、従来併存していた非財務情報開示基準の設定機関がISSBへの統合という国際的な動きの背後にある知的資本の重要性や非財務情報の開示例について分析・考察した。特に知的資本に関する研究を調査した結果、少なくとも研究者の関心が認識・測定から報告・開示に近年シフトしていることが示され、関連する今後の制度設計にも示唆を与えようとした。また、非財務情報の具体事例として税務情報や人的資本情報など、投資家の対応と評価などについて整理・検討した。
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