研究課題/領域番号 |
18K01929
|
研究機関 | 関西学院大学 |
研究代表者 |
杉本 徳栄 関西学院大学, 経営戦略研究科, 教授 (50206695)
|
研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
|
キーワード | 脱グローバル化 / 英国のEU離脱(ブレグジット) / 政治任用 / 財務報告規制 / 国際財務報告基準(IFRS)開発 / 証券取引委員会(SEC) / 財務報告評議会(FRC) / 国際会計基準審議会(IASB) |
研究実績の概要 |
2019年度の研究は、第1の研究課題である「英国のヨーロッパ連合(EU)離脱(ブレグジット)後の財務報告と国際財務報告基準(IFRS)開発に関する政治・経済分析」を中心に実施した。 2019年に展開された、英国下院でのEU離脱協定案や政治宣言案の承認をめぐる攻防を、第1次資料や関連資料をもとに時系列に跡づけ、その実態を捉えた。メイ首相の辞任(6月7日)と保守党党首選(7月23日)で誕生したジョンソン首相による英国のEU離脱の実現に向けた政策や取り組み、さらには議会との攻防を第1次資料によって詳細に整理し、分析を試みた。とくに、2019年12月12日に実施された英国下院の総選挙で保守党が大勝し、ジョンソン首相はブレグジットの実現に向けたEU離脱協定法の成立(2020年1月23日)、そして欧州議会およびEU理事会による離脱協定案の承認(1月29日・30日)を受け、2020年1月に英国はEUを離脱した。この離脱日延長期限までの1年間の英国内および英国とEUの政治分析を進めてきた。 ブレグジット後の英国における財務報告基準、とくに国際財務報告基準(IFRS)の適用に関わる規制とそれに関わるエンドースメント・メカニズムのあり方について、国際会計基準審議会(IASB)の関係者への聞き取り調査などを実施した。財務報告評議会(FRC)の関係者との面談は実現しなかったが、関係する各種情報や資料などを入手している。 この研究成果の一部は、「英国のEU離脱(ブレグジット)後の財務報告基準」として公表することが決まっている(『週刊 経営財務』2020年7月予定)。 第2の研究課題である「米国のトランプ大統領の金融・経済政策の財務報告規制への影響について」は、当該年度中に重要な政策が展開されなかったため、証券取引委員会(SEC)による財務報告規制を中心に研究資料などの収集に努めた。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
英国のEU離脱は、英国内で離脱協定案そのものが2018度までに最終的に批准されなかった。そのため、2019年度も引き続き、英国内でのブレグジットの政治決着に至るまでの動向と英国・EU間の政治交渉に関わる各種情報・資料を収集・整理し、分析を試みている。併せて、英国政府をはじめ、FRCなどによるブレグジット後の英国における財務報告制度、IFRSの適用やそのあり方などに関わる法律や規制措置に関わる第1次資料の収集に努め、その内容を分析して体系的に整理した。 英国とEU(ヨーロッパ委員会(EC)、EU議会やEU理事会など)とのEU離脱交渉との関わりから、EUの政策形成、EUの政治学、ガバナンスなどを中心に関連文献・資料を収集し、EU側から見たブレグジットの政治・経済分析を順次進めている。 2020年1月に英国のEU離脱が承認されたことを受けて、EU離脱協定を実行に移すための英国・EU合同委員会の取り組みや、英国・EUの将来関係に関するEU側交渉指令などの具体化に向けた取り組みといった政治・経済政策とその財務報告規制への影響などについての分析にも着手している。 一方、米国SECによる財務報告規制については、この1年間の関連資料を収集し、併せて、SECコミッショナーや主任会計士について整理したデータベースを拡張・更新した。
|
今後の研究の推進方策 |
英国のEU離脱が承認されたことを受けて、英国政府によるEU離脱(ブレグジット)に関する主要政策は、2020年12月末日の移行期間後を見据えたものを展開している。ブレグジット後の財務報告規制のあり方についても、この移行期間を軸にその前後で異なる方針が示されている。移行期間のあり方などについては、これからの英国とEUとの交渉によっては必ずしも見通せないところもある。そのため、引き続き英国・EUの将来関係に関する規制動向の分析に取り組む。同時に、移行期間前後の英国の財務報告規制とエンドースメント・メカニズムの構築などについて検討を進める。 英国のEU離脱後、EUの加盟国としてではなく単独の国家として、IASBをはじめとするIFRS財団などでの基準開発の過程において、英国が果たす役割とその影響力などについても検討を行なう。 また、米国のトランプ大統領の金融・経済政策の財務報告規制への影響についてさらに検討を深める。大統領の政治任用とSECコミッショナーの規制措置の意思決定との関係やその影響、SEC主任会計士の役割などについても、データなどをもとに検証する予定である。 とくに2020年11月に米国大統領選挙を控えており、政党(共和党・民主党)や候補者による選挙戦での金融・経済政策の新たな公約も注視し、選挙の動向(場合によれば政権移行)とともに、SECなどの主要機関の政治任用の実態にも迫る。 この研究成果の一部は、この間に取り組んでいる「米国会計規制と政治学」に関する研究書にも組み入れて、出版する予定である。
|
次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額が生じたのは、消耗品費の統計解析ソフトなどを購入しなかったことによるものである。 米国のSECの歴代のコミッショナーと主任会計士による財務報告規制に関わる公式文書や公表物などについて整理したデータベースを順次拡張・更新している。これらの政治的特性などについて解明するために、次年度に統計解析ソフトなどを購入し、データ解析などを実施する。 英国のEU離脱後の財務報告とIFRS開発に関する政治・経済分析をはじめ、米国会計規制における政治、とくに米国大統領選挙と政治任用によるSECコミッショナーによる規制措置への政治的影響の分析などの研究課題について、関係機関への聞き取り調査や情報・資料収集並びにその研究成果の発表などのために使用していく計画である。
|