研究課題/領域番号 |
18K01929
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研究機関 | 関西学院大学 |
研究代表者 |
杉本 徳栄 関西学院大学, 経営戦略研究科, 教授 (50206695)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 脱グローバル化 / 英国のEU離脱(ブレグジット) / 政治任用 / 財務報告規制 / 国際財務報告基準(IFRS)開発 / 証券取引委員会(SEC) / 財務報告評議会(FRC) / 国際会計基準審議会(IASB) |
研究実績の概要 |
前年度に引き続き、第1の学術的問いからの研究課題である「英国のヨーロッパ連合(EU)離脱(ブレグジット)後の財務報告と国際財務報告基準(IFRS)開発に関する政治・経済分析」を中心に実施した。 3度に及ぶ離脱期限の延長申請により英国のEU離脱が実現した。英国のEU離脱が実現したことに伴い、英国とEUとの離脱協定によって移行期間(2020年12月31日午後11時まで)が設けられた。この移行期間の最大の懸案は、先送りされた英国とEUの外交や自由貿易協定(FTA)の締結・発効などの新協定の締結の実現可能性である。 EU離脱による英国の財務報告のあり方も、この移行期間を軸に制度設計が図られてきた。これまでの関係機関での聞き取り調査を踏まえた、その後の研究調査などにより、英国のEU離脱後の財務報告に関する規制、とくにIFRSの適用に関わる規制とそれに関わるエンドースメント・メカニズムのあり方、および、それに関わる法制などについて、これまでの経緯も含め、その実情と方向性などについて明らかにした。この研究成果の一部は、「英国のEU離脱後の財務報告基準」(『週刊 経営財務』No.3467、2020年7月27日)並びに「EU離脱後の英国のエンドースメント・メカニズム」(『會計』第198巻第2号、2020年8月)として公表した。 2020年11月に米国の大統領選挙が実施された。第2の学術的問いからの研究課題である「米国のトランプ大統領の金融・経済政策の財務報告規制への影響について」の検討にも密接に関係する。今般の大統領選挙により共和党政権から民主党政権に移行し、証券取引委員会(SEC)委員長をはじめ、新たな大統領の政治任用に注目した。その間の大統領選挙の動向、各候補の重点政策などに関わる研究資料、並びに、財務報告規制に影響に直結する大統領の政治任用の関係資料などの収集に努めた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染防止対策に伴う移動制限などにより、本研究課題に関わる研究調査の遂行にも支障が生じている。 この新型コロナウイルス感染症の世界的規模でのパンデミックは、国際的な機関や各国の政策や対応策などが、必然的に対新型コロナウイルス感染症に関わるものだったと言ってよい。その結果、本研究課題に関わる関係機関や各国での政策や取り組みは一気にブレーキがかかってしまった。そうしたなかでも、英国のEU離脱によるEUとの政治交渉や制度設計などには期限が定められているため、その動向などを注視してきた。新たな動きを捉えて、英国・EU間の政治交渉に関わる各種情報・資料を収集・整理するとともに、英国議会、英国政府と財務報告評議会(FRC)などによる政治・経済政策と財務報告規制への取り組みやその影響について、第一次資料からの解読と分析などに着手した。 併せて、前年度に引き続き、英国とEU(ヨーロッパ委員会(EC)、EU議会やEU理事会など)とのEU離脱交渉との関わりから、収集したEUの政策形成、EUの政治学、ガバナンスなどの関連分権・資料をもとに、EU側から見た英国のEU離脱の政治・経済分析を進めた。 一方で、米国大統領選挙の結果、米国は共和党政権から民主党政権へ移行した。とはいえ、米国大統領選挙を巡る法廷闘争となり、必ずしも順調な政権移行とはならなかった。これまでにも政権移行期には会計制度設計や財務報告規制に対する政策転換の方針が採られ、大きな影響を及ぼしてきただけに、大統領選挙の動向をつぶさに追いつつ、また新政権の経済政策や政治任用などの関連データや資料の収集に努めた。また、この1年間の証券取引委員会(SEC)による財務報告規制に関わる資料を収集するとともに、SECコミッショナーや主任会計士に関わるデータベースを拡張・更新した。
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今後の研究の推進方策 |
英国はEU離脱後も財務報告に対して国際財務報告基準(IFRS)を引き続き適用するとした。ただし、EUから離脱したため、英国での新たな財務報告規制とエンドースメント・メカニズムが必要となる。この新たな枠組みの構築に向けて、英国内でその整備が進められてきた。 IFRSのエンドースメントにはいくつかのスタイルがある。EU離脱後の英国は、EU型のエンドースメント・メカニズムを採用することを決定した。IFRSのさまざまなエンドースメント形態の検討とともに、英国がモデルとしたEU型のエンドースメントの実態分析などを通じて、英国での新たなエンドースメント基準、英国会計基準エンドースメント審議会(UKEB)の設置とその活動のあり方や特徴、並びに、その構築過程における英国政府や議会などの役割などを明らかにする。 加えて、国際会計基準審議会(IASB)をはじめとするIFRS財団などでの基準開発の過程において、英国のEU離脱後に、英国とEUが果たす役割とその影響力などについても検討を行なう。 米国は、建国以来の二大政党の対立軸は大統領選挙とその後の政策立案などに如実に表れる。2020年11月の米国大統領選挙は政権移行が果たされたが、本研究課題の1つを解明するうえでも絶好のタイミングにある。今般の大統領選挙を1つの軸として、米国政治の核心を紐解く。とくに、共和党政権下のトランプ大統領の金融・経済政策の財務報告規制への影響分析に加えて、大統領選挙後の民主党政権のもとでのバイデン大統領の政治任用とSECコミッショナーの規制措置の意思決定との関係やその影響、SEC主任会計士の役割などについても、データなどをもとに検証する予定である。 この研究成果の一部は、出版準備を進めている「米国会計規制と政治学」に関する研究書で公表する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染拡大に伴い、国内外への移動が制限された。そのため、本研究課題に関わる聞き取り調査をはじめとした研究調査や研究成果の報告活動などを計画通りに実施することができなかった。この経験を踏まえて、引き続き移動制限がある場合には、海外の関係機関の関係者とはZoomや他の通信手段などを活用しながら研究調査を実施する計画である。 とくに、英国のEU離脱後の財務報告規制とIFRS開発に関する政治・経済分析、および、米国会計規制における政治、米国大統領選挙と政治任用によるSECコミッショナーによる規制措置への政治的影響の分析などの研究課題について、関係機関への聞き取り調査や情報・資料収集、並びに、その研究成果の発表などのために使用していく計画である。 なお、米国のSECの歴代のコミッショナーと主任会計士による財務報告規制に関わる公式文書や公表物などについて整理したデータベースを順次拡張・更新している。購入した統計解析ソフトを活用して、これらの政治的特性などについて解析を進める。
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