本年度の研究は、これまでの研究成果を踏まえ、まず第1の研究課題(英国のヨーロッパ連合(EU)離脱(ブレグジット)後の財務報告と国際財務報告基準(IFRS)開発に関する政治・経済分析)と第3の研究課題(IFRS財団のガバナンス構造とエンドースメント・メカニズムへの影響に関する政治・経済分析)が密接に関係する問題について重層的に検討した。 「2019年EU離脱規則」は、英国で用いる国際会計基準をエンドースメントし、アドプションする国務大臣の職務・権限を「指定された機関」に委任するとした。「指定された機関」としての「英国会計基準エンドースメント審議会」(UKEB)が設立・運営されるまでの動向とその舞台裏を、英国議会での制度化に向けた審議なども分析し、UKEBの機能や構図などの全容を解明した。この分析から、英国が財務報告に際して国際会計基準を使用する構図は、EU加盟国のときと実質的に変わらず、またUKEBはEUの欧州財務報告諮問グループ(EFRAG)と同じ機能を有することを導き出した。その研究成果は、「英国会計基準エンドースメント審議会(UKEB)の機能と構図-独立性と説明責任-」(『週刊 経営財務』No.3529、2021年11月1日)である。 サステナビリティや非財務情報へのIFRS財団による新たな取り組みの関連情報も収集した。 第2の研究課題(米国の政治任用とシンクタンク活動による財務報告規制への政治・経済分析)については、バイデン大統領による証券取引委員会(SEC)委員長の政治任用をもとに、会計・監査の規制の中枢であるSEC主任会計士室並びに主任会計士の役割と実態を紐解き、SECが米国の財務報告制度で直面する課題などについて明らかにした。この研究成果(「投資家のための米国財務報告制度とSEC主任会計士室の改革」)は『會計』第200巻第6号(2021年12月)に掲載された。
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