本研究は、多様なステークホルダーの存在を前提に、企業価値創造に向けた統合報告による経営管理への効果に関する実態把握と理論的考察を目的とする。 2018年度は、経済的な企業価値とCSR(企業の社会的責任)やESG(環境・社会・ガバナンス)における企業価値との関係性、及びそこでの統合報告の役割を明らかにするべく、国連のSDGs(持続可能な開発目標)に着目した。SDGsの達成に貢献するためのSDGsを巡るマネジメントについて考察し、SDGsマネジメントのフレームワークを明らかにするとともに、そこでの統合報告の位置づけ・役割を明らかにした。 2019年度は、企業価値創造において重要なコーポレートガバナンスに焦点を当てた。コーポレートガバナンスの1つの仕組みとして統合報告を位置づけ、統合報告を中心にコーポレートガバナンスの枠組みについて検討し、モデルを提示した。また、企業価値創造に向けた統合報告による経営管理への効果の体系化を進めるべく、統合報告と統合思考が企業価値創造を実現する枠組みについて検討を行った。 2020年度は、人的資産(従業員)に焦点を当てて研究を行った。人的資産は、主に経済価値創造の源泉であるインタンジブルズとして、また、近年の働き方改革、ダイバーシティ、人権などの点で社会価値・組織価値創造に大きくかかわるものとして、統合報告書の重要な記載内容である。統合報告のより良い実践、統合思考の浸透においては、従業員の果たす役割・機能が重要である。人的資産を価値創造につなげるため、人的資産の適切な測定、管理、報告のための取り組みとして統合報告を取り上げ、その意義や課題について提示した。 あわせて、統合報告の取り組みにおいて先進的な企業に対するインタビュー調査を継続し、2019年度までの2社に加えて、新たに1社に対してインタビュー調査を行った。
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