本研究は、(財務報告を市場に対し行う)企業の経営者らによる会計基準の選択・適用の際における動機と、その影響(①財務報告の質への影響および②市場に対する経済的影響)について、理論的・実証的に分析を行おうとするものである。また、2023年度において、特に、日本企業で、会計基準の選択・適用の際の動機に関わり、制度からの影響という視点から、分析を行おうとしている。日本では,気候変動問題対応政策の一環として2020年10月に2050年までカーボンニュートラル実現が宣言され,「クライメート・トランジション・ファイナンスに関する基本指針」が示されている。2023年度の本研究における具体的な取り組みとして、上記の政策的変動:当該宣言が温室効果ガス(GHG)多排出企業に与える影響について分析されている。具体的には,2016-2022企業年度を分析対象とし,2020年のカーボンニュートラル宣言の前後での,企業の会計的および実体的裁量行動について分析されている。この部分についての分析結果を下記に少し示す。つまり、実証分析の結果,GHG多排出企業は2019年度から利益減少型の会計的裁量行動を取り始め,2020年度が大幅な利益減少型の会計的裁量行動を行ったが,2018年度以前には当該行動がなかったことが示されている。また,実体的裁量行動の側面では,研究開発費について多排出企業が少ない傾向にあり,また宣言直前の2018-2020年度において設備投資額が増加傾向にあったことが示された。本研究は,規制とその効果との視点から規制当局や政策立案者等関係者に示唆を与えるものであることが期待される。研究成果については、研究成果一覧のところをご覧いただきたい。また、本研究については、これまでもコロナ禍の時期も含めて、本研究を進めてきている。全体的な研究成果は、実績報告書をご覧いただければ幸いである。
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