本研究は,中長期的な投資および融資の環境の整備に有効に機能する新たな報告システムの構築に貢献するために,とくに非財務情報の開示に着目して,具体性かつ包括性をもったデータの検証と分析結果をまとめることが目的であった。ここでは,わが国における非財務情報の開示が,とくに (1) 大企業を中心とした媒体である統合報告書と,(2) 中小企業を中心とした事業性評価報告書において,おおきな進展がみられることに着目し,これらの開示媒体における非財務情報の開示項目と開示形態について,中長期的な価値創造プロセスとの結び付きの観点から包括的な検証をおこなうことを目指した。 主な研究成果は,つぎの2つである。第一は,企業がメディア等による複数のモードを通じて財務と非財務の指標をステークホルダーに伝達すること - マルチモダリティ (multimodality) - が,わが国企業のマネジメント層と外部のステークホルダーとの間のコミュニケーションに有効に機能すること。第二は,とくに投資決定の情報媒体において,情報内容に秘匿性等がある場合であっても,シグナルの発信は将来の業績を予測するうえで重要な貢献を果たすこと。 本研究の研究期間3年の最終年度には,(1) 国際的な学会に参加して,(2) 令和1年度にとりまとめた研究成果の発表を通して2つの実証研究の成果をブラッシュアップしたうえで,(3) ひろく社会に還元することを予定していた。しかしながら,参加を予定していた国際的な学会や研究会が令和2-3年度はパンデミックによる中止,令和4年度は国内のパンデミックの状況によって参加をすることができず,最終年の計画は3年間の延期となっていた。令和5年度は,この最終年度の計画を実施した。 本研究の主な2つの成果は,わが国の中長期的な投資と融資の環境の整備に向上に貢献することが期待される。
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