研究課題/領域番号 |
18K01937
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研究機関 | 高知工科大学 |
研究代表者 |
上村 浩 高知工科大学, 経済・マネジメント学群, 准教授 (10710189)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 統制自己評価 / コーポレート・ガバナンス / 財務報告の質 |
研究実績の概要 |
本研究の研究課題(リサーチ・クエスチョン)は、「組織における内部モニタリング機能の1つとして特に統制自己評価(自己点検評価)システムが、財務情報の質に影響を与えるか」というものである。統制自己評価とは、重要な経営上の目的、リスクおよびリスク対応の進捗状況をレビューするための方法である。また統制自己評価は内部統制の運用状況をレビューするためにも用いられる。ビジネス上のリスクおよび内部統制の運用状況は財務報告の信頼性に影響を与えることはこれまでの先行研究で明らかにされている。本研究ではこれらを踏まえて統制自己評価が財務報告の信頼性に与える影響について分析することを目的としている。 上記の目的を達成するために、今年度は以下の2点について検証および検討した。第1に企業のアーカイバル・データを用いて統制自己評価を内部モニタリングとして導入していることに対する企業の意識が財務報告に与える影響について検証した。ここで、企業の意識は直接測定できないため、現在開示されている「コーポレート・ガバナンス報告書」において統制自己評価の状況とその位置づけ、また効果について言及している企業とそうでない企業とに分類して比較分析を行った(サンプルを構成する上場会社数は3517社)。また財務報告の質の代理変数として、財務諸表の修正再表示の回数、裁量的会計発生高の額、および監査報酬の額を用いた。検証の結果統制自己評価の状況を開示項目に含める企業は、そうでない企業よりも財務諸表の修正再表示が少なく、また監査報酬額が小さいことが明らかとなった。この結果は、統制自己評価システムの質が財務報告の質に影響する可能性が高いことを示唆している。 この結果を踏まえ、第2に次年度に行う上場企業へのアンケート調査の項目について検討した。特にここでは企業ごとのシステムの相違が明確になるような項目設定となるよう注意した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の分析の中心は次年度に行う全上場企業に向けてのアンケート調査とその結果の分析である。これを行うことの妥当性は、統制自己評価に対する企業の意識が財務報告の質に影響することが前提となる。当該年度(初年度)は、この前提の妥当性を確認することに研究の主眼をおこうものであり、この意味から当該年度に行った実証分析およびその実証結果はこの前提を概ね支持するものであったことは次年度のアンケート調査に繋がるものであったと考えている。またこの結果はいくつかの国際学会において発表しており、ここで多くのコメントを頂戴している。 以上のことは次年度(2年度)実施予定のアンケート調査を実施するために検討する必要がある調査項目および調査内容を策定する上で重要なものであると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
次年度については、本研究の中心的な分析調査であるアンケート調査を実施する予定である。調査対象は当初計画通り日本の全上場企業であり、方法は勇壮によるものである。今後調査項目の検討を加え、2019年内には実施予定である。 これに向けては、回収率を上げるために専門調査機関との連携を考えており現在その機関の選定を行っている。またアンケート調査という調査の特性上情報の秘匿および倫理面に十分配慮する必要がある。これらについては所属機関に設定されている委員会において調査内容を検討していただき、許可を得ることとする。 また、調査結果の分析(主として量的分析)を行うが、これについては先行研究およびいくつかの前例(例えば内部監査協会実施の調査)を十分レビューしこれらを参考とする。 最後に今回の調査結果を論文としてまとめ、国際学会に提出する予定である。
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