本研究の目的は、わが国上場企業の内部監査の実態を明らかにするとともに、内部監査機能の特質(教育・研修、専門性、人員数等)及び内部監査において採用される統制自己評価の状況、さらに会計監査人による内部監査結果の利用が財務報告書の質及び外部監査の質(実効性及び効率性)に与える影響を検証することにある。本研究では、この目的を達成するためにわが国上場企業3667社を対象にサーベイ(質問調査紙を利用したアンケート調査)を実施した(有効回答数は512社)。 調査の結果、以下の点が明らかとなった。第1に内部監査部門の規模(総資産対内部監査スタッフ率)及び監査スタッフの教育・研修の実施、専門性(資格保有率)は監査報酬と有意な正の相関を有する。また会計監査人による内部監査報告書の閲覧も監査報酬を有意な正の相関を有する。 一方で、会計監査人による内部監査調書の閲覧及び会計監査人と内部監査人との情報伝達は、監査報酬と有意な負の相関を有する。 また、統制自己評価の採用、統制自己評価の内容(チェックリストの利用の有無等)、また統制自己評価の質(内部監査部門による自己評価の結果)については、監査報酬及び財務報告の質に対する影響が示されなかった。 これらの結果から、「監査報酬の増加を伴なう、外部監査の質」に影響する内部監査に関連する要素と、「監査報酬の減少を導く外部監査の効率性」に影響する内部監査に関連する要素が明らかとなった。一方、これらの相違をもたらす理論的な説明は十分に検討されていない。また統制自己評価が、少なくとも外部監査の報酬及び財務報告の質(会計発生高)に影響しないという結果から、内部監査の特質の各要素と統制自己評価に関連する各要素とのインタラクションと上記の従属変数との相関を再考察する必要がある。
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