本年度は海外学会における報告はできなかったが,関連する論文3本を執筆することができた。このうち,主たる2本の内容を示す。 1本目は,「価格変動制の導入に貢献する顧客管理会計」である。価格変動制は短期的な売上最大化のみならず長期的な収益性の実現を重視すべきこと,そのためには顧客管理会計情報が重要な役割を果たすこと,不可避的に発生するトレードオフの解消が必要であることを指摘した。意思決定段階においては,異なる顧客セグメントに対して,キャパシティの割り当てが行われる。この段階においては,重視すべき顧客セグメントを発見・評価するために,顧客別収益性分析が利用される。また,キャパシティ配分の良否を検証するためには,長期的な利益をもたらす顧客セグメントを識別してセールスミックスを決定する必要がある。そのために,顧客生涯価値が利用される。これらの管理会計情報に基づき,顧客維持率,販売数量,販売単価といった計算要素を踏まえながら顧客セグメントの組み合わせを決定する。また,有限なキャパシティを時間軸の中でいかに割り当てるかが収益性に影響を及ぼすことを指摘した。 2本目は,「販売チャネルの多様化に伴うホテルと顧客とのコミュニケーションに関する研究-インタビュー調査に基づく検討-」(共著)である。ホテルの多様化した販売チャネルの特徴を概観し,インタビュー調査を通じて,その現状を明らかにした。具体的には,4社のホテルに対して,販売経路別に,(1)ターゲット顧客に対しコミュニケーションをとっているか,(2)とっている場合はどのような手段でとっているか,(3)また,コミュニケーションの質の良否を判断するために,どの尺度を利用しているか,についてのインタビュー調査を行い,その結果をまとめた。そして最後に,インタビュー調査から得られた知見に基づき,ホテルと顧客とのコミュニケーションについて考察した。
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