研究課題/領域番号 |
18K01942
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研究機関 | 法政大学 |
研究代表者 |
福田 淳児 法政大学, 経営学部, 教授 (50248275)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | スタートアップ企業 / マネジメント・コントロール・システム / コントロールの対象 / MCSsの精緻化 |
研究実績の概要 |
本年度は,スタートアップ企業である株式会社エニグモを取り上げ,同社におけるマネジメント・コントロール・システム(以下,MCSsと略す)の精緻化の状況を検討し,次の諸点を明らかにした。 第1に,MCSsの採用およびその精緻化に影響を及ぼす要因を明らかにした。同社の経営理念は,人材採用システムや人事考課システムといった他のMCSsを設計する際の基盤となっていることが明らかにされた。さらに,経営理念に基づいて設計されたそれらのシステムは,経営理念を強化する役割も果たしていた。企業規模はMCSsの採用およびその精緻化にも影響を及ぼしている。IPOは予算編成システムの精緻化に特に影響を及ぼしていた。さらに,予算編成システムの精緻化には,専門家の組織への参加および退出が影響を及ぼしていた。 第2に,MCSsの精緻化とコントロールの対象の関係を明らかにした。人事考課システムや予算編成システムなどは,その精緻化のプロセスで,各々のMCSsが組織内で果たすコントロールの役割を拡大している。このことは,MCSsは当初ある目的またはあるコントロール対象を想定して採用されるが,それが組織内で定着し,展開するにつれて,いくつかのコントロール対象に向けて役割を遂行する方向で拡張されることを示している。 さらに,本年度は,スタートアップ企業におけるMCSsの精緻化の概念のより明確な定義およびその測定を行うことを目的として文献レビューを継続的に行なっている。これは郵送質問票調査を行う上で不可欠の作業である。来年度,ケース研究で明らかにされた発見事項の一般化の可能性を検証する目的で,東証マザーズ上場企業を対象に質問票調査を行う予定である。その際に精緻化を一定の尺度で測定することが必要となる。現時点では,MCSsの精緻化の次元として,システムの質の側面と情報の質の側面から検討される必要があると考える。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度はスタートアップ企業を対象に追加的なインタビュー調査を実施した。さらに,スタートアップ企業である株式会社エニグモの事例を取り上げ,同社におけるマネジメント・コントロール・システム(以下,MCSsと略す)の精緻化の状況を検討した。この検討によって次の2点を明らかにした。第1点目は,MCSsの精緻化を促進する要因を明らかすることができた。企業規模の成長,IPOおよび専門家の組織への参加と退出がMCSsの精緻化に大きな影響を及ぼしていた。さらに,MCSsの下位システム間の相互作用も精緻化の大きな要因の一つであった。これらの点は,本研究の目的であるスタートアップ企業の精緻化を促進する要因の解明と大きな関連性を有している。さらに,本検討を踏まえ,MCSsのコントロールの対象が組織内でのMCSsの精緻化に伴い拡張する傾向があることも発見された。この点は新しい発見であり,次年度に予定している質問票調査においてもその発見に一般化の可能性を明らかにしたい。 また,本年度はMCSsの精緻化の測定尺度の開発に向けて,文献レビューを継続的に実施している。MCSsの精緻化は,大きく情報システムの質の側面と,それが生成する情報の質の2つの側面から検討することが可能である。しかしながら,管理会計研究では,これまで情報の質の一部,特に情報の範囲についてかなりの研究の蓄積があるが,その他の側面についての研究の蓄積が十分ではない。このために情報システム全般についての議論にまで文献レビューの範囲を広げ,精緻化の尺度の開発を行っている。 以上の点から,概ね研究は予定通りに進んでいると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
ケース研究より明らかにされたMCSsの採用およびその精緻化を促進する要因に基づいて,スタートアップ企業におけるMCSsの精緻化に関する仮説の設定を行い,東京証券取引所の マザーズ上場企業を中心に,質問票調査を実施する予定である。 質問票調査の目的は次の諸点である。第1に,ケース研究で発見されたMCSsの精緻化を促進する諸要因がスタートアップ企業横断的に妥当するものであるのかを明らかにする。このためには,MCSsの精緻化を測定することが必要となる。文献レビューおよびインタビュー調査を実施することで,MCSsの精緻化の尺度を開発することも今後の研究の目的の一つである。第2に,ケース研究で発見されたMCSsの精緻化のプロセスで,MCSsのコントロール対象が拡大する点についても質問票調査を通じて明らかにしたい。これは本研究の応募時に掲げた目的の一つであるスタートアップ企業におけるMCSsの採用目的との関連でも重要である。さらに,スタートアップ企業の資金調達状況や創業者の特性などの変数を加味することでMCSsの精緻化への影響要因を広範囲に捉える予定である。 これらの質問票調査に加え,いくつかのスタートアップ企業とのインタビュー調査を実施する予定である。インタビュー調査によってMCSsの精緻化の状況を詳細に時間を追って観察することが可能である。これによって,MCSsの精緻化が組織ならびに組織成員に及ぼした影響を明らかにすることを意図している。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度のインタビュー対象となったスタートアップ企業が東京に本社を置いていたために,予定していた国内旅費がかからなかったことが,次年度使用額が生じた原因の一つである。スタートアップ企業が本社を東京におくケースが多いことがその主な原因であるが,スタートアップ企業の地域差,特に大学発ベンチャー企業も考慮する必要があるために,次年度は他の都市に本社を置くスタートアップ企業も対象に広範な調査を試みる予定である。
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