研究課題/領域番号 |
18K01942
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研究機関 | 法政大学 |
研究代表者 |
福田 淳児 法政大学, 経営学部, 教授 (50248275)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | スタートアップ企業 / マネジメント・コントロール・システム / 精緻化 / 測定尺度 |
研究実績の概要 |
今年度は,スタートアップ企業へのインタビュー調査を実施するとともに,スタートアップ企業を対象とした質問票調査に向けてMCSsの精緻化の程度の測定尺度の開発の観点から広範な文献レビューを実施した。レビューの焦点は,MCSsの精緻化という概念が意味する内容,またその測定尺度におかれた。その結果,MCSsの精緻化の意味する内容は論者によって多様であるが,以下の4つに分類できることを明らかにした。 第1は,MCSsが提供する情報の質に着目した研究である。これらの研究は,Chenhall and Morris (1986)の研究に基づき,情報の範囲,適時性,情報の集約および統合のレベルに言及している。第2は,MCSsのシステムの質に着目した研究である。Nelson et al. (2005)の研究に基づいて,統合,フレキシビリティ,アクセス可能性,公式化,メディア・リッチネスの5つがHeidmann (2008)の研究で取り上げられたが,本研究では情報の集約のレベルおよびリアルタイムでの重要な情報の処理の重要性を指摘した。第3は,MCSsに投入される情報の質に着目した研究である。Reheul and Jorissen (2014)の研究では,計画設定にあたって収集される情報の範囲またコントロール・システムとしては業績評価尺度の多様性が取り上げられた。第4に,その他の観点として,例えばAbdel-Kader and Luther (2008)の研究では,管理会計実務の精緻化の程度がそれが果たすことを期待される役割の観点から定義されている。 本研究が対象としているスタートアップ企業では,必ずしも多様なMCSsが採用されていないこと,採用されたMCSsは組織内部に焦点を当てた計画設定に関わるものが中心である事が発見されている。今後の尺度の開発にあたってこの点も考慮する事が重要である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
シリアルアントレプレナーによって創立されたスタートアップ企業についての文献調査およびインタビュー調査を実施する事ができた。また,そのプロセスでMCSsの精緻化という概念が意味する内容が実務家にとってもかなり異なるという点が明らかとなった。同様なことは学術文献についてもいえる。このことは,今後の質問票調査を実施していく上での大きな問題点の一つとなりうる事が理解できた。そのために,MCSsの精緻化という概念について,MCSsの精緻化が意味する内容およびそれらをどのように測定しているのかという点に焦点を当てて文献レビューを実施した。その成果は福田(2020)として公表する事ができた。 しかしながら,本来,昨年度の1月以降に実施することを予定していたインタビュー調査のプロセスで,上記の文献レビューで明らかにしたMCSsの精緻化が意味する内容およびその概念の測定尺度について,実務家を対象とした予備的なテストを実施する予定であったが,それを実行する事ができなかった。このため,研究の進捗状況がやや遅れていると評価した。さらに,その調査に引き続いて行う予定であったMCSsの精緻化に関わる質問項目をその重要な部分とする質問票の作成がまだ十分に行えていない状況にある。
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今後の研究の推進方策 |
今年度は本研究の最終年度であるため,適切な時期にスタートアップ企業数社へのインタビュー調査を行い,そのプロセスでMCSsの精緻化の内容および測定尺度に関する実務家の意見を聞き,質問の言い回しなどの点で修正を行う予定である。その上で,これらの内容をスタートアップ企業においても初期の段階で一般的に採用されている事が予想される予算や業績評価システムといった管理会計システム,さらに人的な採用計画また手続きに適用することで,質問票調査のための質問項目に折り込む予定である。この質問票は,現時点ではインターネットにより実施する予定である。ただし,これについては,今後の社会の情勢を見ながら,いつの時点で実行可能であるかを検討したいと考えている。 上記に加え,または上記の分析とは独立的に,既にIPOを実施した企業に限定はされるが,東京証券取引所のJASDAQ及びマザーズ上場企業のうち,創業後比較的間もない企業でかつ従業員数が一定以上の企業を選択し,創業者に関わるデータや資金調達に関わるデータを収集し,それらのデータと企業業績との関係性に関わる分析も行う予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額が生じた理由として,第1に昨年度1月以降に予定していたインタビュー調査が実施できなかった点がある。またそれに伴い,インタビュー調査での実務家による質問項目の理解状況を加味した上で作成および実施する予定であった質問票調査の実施が遅延している事が理由である。 スタートアップ企業へのインタビュー調査については,今後の状況を見ながら実施できるように努力していく予定である。また,すぐにインタビュー調査ができない状況が継続する場合には,それとは別に数名の実務家また研究者にMCSsの測定尺度を検討してもらい,修正を加えた上で,質問票を作成することも考えている。また,その質問票が完成次第,東京証券取引所のJASDAQまたマザーズに上場している企業のうち,創業後比較的間もない企業でかつ一定の規模を有する企業を対象に,webを利用した質問票調査を実施する予定である,
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