研究課題/領域番号 |
18K01943
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研究機関 | 法政大学 |
研究代表者 |
川島 健司 法政大学, 経営学部, 教授 (80406652)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 統合報告 / 自然資本 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、 企業情報開示の枠組みである統合報告に着目し、その非財務情報の質的特性とその情報利用者に対する効果を明らかにし、統合報告実務の実態と在り方を学術的観点から検討・評価することである。研究期間の初年度にあたる本年度は、統合報告の制度と実務を幅広く観察し、次年度以降に実施するその非財務情報の質を分析・評価する視点や枠組みを検討した。 特に統合報告実務で近年注目されている自然資本に焦点を当て、その概念がどのような経緯で経営および情報開示の実務に普及してきたかを概観し、自然資本の保全活動に関する情報開示が行われる論理を整理した。自然資本とは、組織の過去、現在、将来の成功の基礎となる物・サービスを提供するすべての再生可能および再生不可能な環境資源およびプロセスをいう。具体的には、空気、水、土地、鉱物、森林、生物多様性、生態系の健全性などをさす。これらは自然によって形成される資源であり、1つのストック概念である。この自然資本から生み出されるフローとしての価値は「生態系サービス」として捉えることができる。すると、自然資本のストックとフローの価値を企業として適切に認識、評価、管理することが、企業経営の持続可能性を高めるうえで重要な課題となる。 こうした観点による情報開示について、日本における先進的な取り組みを行う具体的事例としてサントリーの活動を観察し、自然資本に関する情報開示に対するインプリケーションを導出した。これらは、以下の論文にまとめている。 川島健司(2018)「自然資本のディスクロージャー―制度的背景、説明理論、および事例研究」『経営ディスクロージャー研究』第17号、pp.23-32. (2018年12月に発行)
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究の具体的な課題は、日本企業の非財務情報は何がどのように開示されているか(開示実態の分析)、非財務情報の質はどのように評価できるか(質的特性を評価する枠組みの検討)、日本企業の非財務情報の質はどの程度か(情報内容の評価)、日本企業の非財務情報は投資家に対して有用か(情報内容の有用性の分析)、日本企業の非財務情報の内容と効果は、海外諸国と比較してどのような特徴があるか(開示実務の国際比較分析)を明らかにすることである。 これに対して、平成30年度には日本企業の統合報告の実態を観察し、そこで開示される非財務情報の内容を基礎的データとして記述・整理するとともに、非財務情報の質を分析・評価する視点や枠組みを検討する予定であった。しかし、基礎的データの収集作業に当初の予定を上回る時間を要しており、現在、収集作業を継続中である。また、非財務情報の質の分析枠組みも現段階では提示するには時期尚早であり、研究を継続している。
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今後の研究の推進方策 |
第2年度では、当初の予定であった統合報告における非財務情報の内容を基礎的データとして記述・整理することを継続するとともに、日本企業における開示状況の傾向を分析する。その基礎的データと分析枠組みにもとづいて、非財務情報の性質を分析する。 その際の手法として着目しているのは、2014年にThe Accounting Review誌に掲載されたHuang et al. (2014)の研究である。その分析では “Tone Management”という概念が提唱され、企業はプレスリリースにおける記述のトーン(tone)をどのように調整し、それが投資家にどのような影響を与えているかが検証されている。当該研究の操作変数である“abnormal positive tone”(ABTONE)は、本研究における統合報告の非財務情報に関する印象管理の分析においても援用できると考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額が発生した主な理由は、当年度に予定していた国際学会での研究報告の1つを延期にしたため、その交通費などの費用を繰り延べたことによる。次年度以降の同学会での報告にかかる支出に充当する予定である。
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