研究課題/領域番号 |
18K01944
|
研究機関 | 立教大学 |
研究代表者 |
岡本 紀明 立教大学, 経営学部, 教授 (00433566)
|
研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
|
キーワード | 会計基準設定 / 会計基準の国際的統合 / のれんの会計 / 会計制度の政治的側面 |
研究実績の概要 |
先行研究のレビューを中心に会計制度の動態に関する理論的・概念的研究を進めつつ、のれんの償却をめぐる国際的な基準設定動向を追跡してきた。具体的に、会計制度に関連する各種専門機関が公表した議事録やディスカッション・ペーパー等の文献を収集し、調査を進めた。特に本研究の問題意識の中心にある、のれんの償却に関するわが国からの「説得」に関してであるが、2020年3月にIASB(International Accounting Standards Board: 国際会計基準審議会)から公表されたディスカッション・ペーパーでは、既存の減損のみのアプローチを廃止して償却を再導入するまでではないというスタンスが示されている。ただし、未だディスカッション・ペーパーであり、例えばわが国のASBJ(Accounting Standards Board of Japan: 企業会計基準委員会)が香港公認会計士協会と共同でのれんの償却を推すリサーチ・ペーパーを公表するなど、今後の基準化に向けた動きをさらに注視する必要がある。 それと並行して、のれんの理論的基礎となる企業結合(M&A)における「評価」が、専門家の間でいかに捉えられているかの分析も行った。結果として、専門家の間ではM&Aに関する多様な評価原理の存在が明らかになり、のれんの評価や処理の方法として、多様かつ様々な異なる視点が存在すると推察される。このような考察に基づく論文を作成し、近々公表されることも決まっている(日本情報経営学会学会誌に掲載予定)。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
研究計画時点の想定よりは少し遅れる予定であるが、2020~2021年にかけて、IASBに加えて米国のFASB(Financial Accounting Standards Board: 財務会計基準審議会)が公開企業に対するのれんの処理に関して、減損のみのアプローチを維持するのか、以前のように償却するアプローチを再導入するのかどうかの結論を出すことが見込まれる。その点においては、最終的な基準設定の結果と、いかなる要素がその決定に大きな影響を与えたかをタイムリーに考察できると考えられる。ただし、会計制度の動態や基準セッターをいかに説得するかに関する理論的な考察がやや遅れている。その理由として、「説得」をいかなる規模やコンテクストで捉えるか(例えば個人レベルなのか組織的レベルなのか)が未だ定まっていない点が挙げられる。
|
今後の研究の推進方策 |
次年度は研究の最終年度であるため、のれんの会計制度に関する基準設定過程を詳細に分析する予定である。最終的な基準設定に至る過程を追跡し、それに大きな影響を与えたと考えられる要素を浮き彫りにしたい。そのためには、議事録等の詳細な分析及び、必要があれば関係者へのインタビュー等も考えている。 加えて、会計基準設定や様々な制度設計における「説得」の理論的考察も進める。そのためには、レトリックに関する研究成果やコミュニケーション理論等も視野に入れた学際的な考察を加える必要がある。 最終的に、2020年度はのれんの会計制度設計を題材にした「説得」の観点を導入した研究成果をまとめ、研究論文として国内外の学会や関連雑誌等で発表することを目指す。
|
次年度使用額が生じた理由 |
本研究の分析対象であるのれんの会計基準をめぐる議論が長引いているのに加えて、理論的考察が研究計画通りに進まなかったため、文献取集に関する使用と出張等のための使用を次年度に繰り越しました。
|