研究課題/領域番号 |
18K01945
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研究機関 | 立教大学 |
研究代表者 |
諸藤 裕美 立教大学, 経済学部, 教授 (20335574)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 原価企画 / 創造性 / 連携 / インタラクション / トヨタ / 管理会計 / 心理学 |
研究実績の概要 |
原価企画における原価目標のタイトネスについては、厳しすぎると望ましくないという考え方が一般的であり、そのような考えと一致した実態調査も存在する。一方で、非常に厳しい目標が設定されている実務を示した既存研究もあり、研究者自身の聞き取り結果でもそのような事実が得られている。そのような理論と実務の乖離に着目し、今年度は第一に、原価企画研究に限定せずに、目標のタイトネスと業績との関係を扱っている管理会計学領域の研究をサーベイした。心理学ベースの研究が多かったことから、引用されている心理学領域の研究も確認した。期待理論や目標設定理論を用いた研究の多くは目標のタイトネスと業績との正の関係を示していたが、タスク遂行のための戦略開発が必要である複雑なタスク(創造性を要するタスクもこれに類似する)については、その関係が弱いことがメタ分析より明らかにされている。また、近年認知心理学のワーキングメモリーの考え方を用いる研究が出てきており、両者の負の関係が仮説として示され、大学生への実験で支持されている。製品開発における目標原価のタイトネスを扱った研究では、目標がタイトであると組織学習を促進するという仮説が支持される結果が企業のデータに基づき得られており、但し、目標が緩い場合よりも実際原価は低くなるが、設定された目標原価を達成しないことがほとんどであることも同時に明らかとなっている。原価企画を中長期利益計画と結び付けて行う場合、常に未達を許容することは望ましくない。組織学習の促進と中長期利益計画との関係性との両立をどのように可能にするか、という問いを立て、トヨタの事例を分析した。 第二に、厳しい目標を達成するために用いている原価企画体制(委員会活動)やそこでの組織単位間の連携の仕組みについてのトヨタの事例分析を国際学会で報告し、その時得られたコメントをもとに新たな枠組みでの分析を検討している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
目標のタイトネスと業績との関係につき、原価企画研究以外も含めた管理会計学領域の研究をサーベイし、9月に学会報告を行い、その知見を製品開発領域の研究の確認とともに原価企画の問題に当てはめ、厳しい目標原価のメリットである組織学習の促進を享受すると同時に、利益計画の実現につながらないというデメリットを解消するような目標原価の設定・達成方法はあるかという新たな問いを立て、その答えにあたる実務を示すことができた(12月の学会報告、1月の論文執筆)。また、国際学会報告の際に、創造性と連携の両立を可能にする原価企画を説明する別の枠組みの可能性のコメントを頂くことができた。以上のことから、おおむね順調に進展していると考える。
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今後の研究の推進方策 |
第一に、2019年度の学会報告で得たアドバイスをもとに、新たな分析枠組みを検討する。 第二に、2019年度までは主に組織内の連携を考察したが、組織間の連携を考察対象に含める。
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次年度使用額が生じた理由 |
2019年度は、統一論題報告など報告の機会に恵まれたことから、インタビュー調査は若干後回しとなった。しかし、2月からインタビュー調査準備を始め、一部実施した。今後も企業訪問が可能な状況となれば、引き続きインタビュー調査を行う。
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