研究課題/領域番号 |
18K01948
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研究機関 | 南山大学 |
研究代表者 |
窪田 祐一 南山大学, 経営学部, 教授 (40329595)
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研究分担者 |
三矢 裕 神戸大学, 経営学研究科, 教授 (00296419) [辞退]
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | マネジメントコントロール / 創造性 / イノベーション / 企業家的ギャップ / エフェクチュエーション / Levers of Control |
研究実績の概要 |
本研究は、ロバート・サイモンズの提唱するLOC(Levers of Control)にもとづき、企業が採用するコントロールの組み合わせ(MCP、 Management Control Package)を解明する。また、本研究の目的は、このMCPが企業家精神にどのような影響を与え、イノベーションの実現を可能にするのかを検討することにある。なお、LOCには、組織の基本的な価値観などを示す「信条」、行動規範や事業領域を示す「境界」、実績をモニタリングして目標との差異を是正する「診断型」、組織成員が対話を繰り返すことで課題解決する「インターラクティブ型」の4つのコントロールがある。 2019年度は、統計分析から、MCPパターンとして4つのLOCを均等に利用する均衡パターン(すべてを強度利用する「全高型」など)と特定のコントロールを利用する偏向パターン(「信条境界型」と「経営管理システム重視型」)の存在を明らかにした。このMCPパターンは、当初の研究計画の想定とは異なるものであった。また、イノベーション戦略志向がMCP選択に与える影響について分析し、既存知の活用を志向するときは、主に「全高型」「経営管理システム重視型」を、新たな知の探索を志向するときは「全高型」「信条境界型」を企業は選択することを明らかにした。なかでも「全高型」から、探索志向においても企業は管理会計システムがイノベーションの実現に欠かせないと考えていることが示された。さらにMCP選択は、戦略志向だけで決定されず、組織内の企業家的ギャップと関連する組織文化の影響を受けることを確認した。 ただし、MCPパターンが業績向上などの成果に与える影響や、アントレプレナーシップ研究で注目されるエフェクチュエーションによる設計問題については十分に解明できていないため、残された研究期間において、これらの解明を進めたい。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究のマネジメント・コントロール・パッケージ(MCP)についての考察は、学会発表や学術雑誌にて公表し、一定の研究成果を上げることができた。そのため、現在までの進捗状況は「おおむね順調」と判断した。 研究計画に従い、企業家的ギャップの基底にある不確実性への対処(リスクテーキング)と協力体制を可能とする相互依存性の確保に注目して研究を進めた結果、MCPの適切な設計原則には複数のパターンがあることも明らかになってきている。また、イノベーションや戦略転換のMCPのメカニズムには、組織文化や企業の成長段階などが影響を及ぼすことも確認されており、PDCAサイクルにもとづくマネジメント・コントロールの再考に資する分析結果が得られた。このように当初の計画・目的にそった形で研究を進めることで、多くの知見を得ることができている。 他方、本研究を進める中で、当初計画にて想定していたMCPパターンと実際のパターンとの相違が明らかになったこと、当該領域の管理会計研究者より新たな研究成果が公表されたことなどを受けて、2019年度に予定していた新たな郵送質問票調査の実施は延期することにした。代わりに、予備的な聞き取り調査を実施し、実務実態を把握するとともに、エフェクチュエーションなどの新たな論理・概念の適用可能性について再検討を実施している段階にある。とはいえ、次年度以降に向けて取り組むべき内容は明確であり、ここまで総じて本研究課題は順調に進展していると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
2020年度の研究計画の遂行には課題が生じている。本研究では、郵送質問票調査を実施することで、企業家的ギャップを生み出すコントロールパッケージの順機能・逆機能の解明と創意工夫を促すマネジメントサイクルと管理会計システムの関係を分析することを予定していた。 しかし、新型コロナウイルス感染の広まりを受け、2019年度末に予定していた調査が実施できておらず、回収率や回答などに与える影響を考えると2020年度の前半も実施が困難であると判断している。このことは企業に対する聞き取り調査でも同様であり、一連の調査の実施時期については見極めることにし、延期(研究期間の延長)も視野に対応する予定である。なお、過去に研究代表者が実施した質問票調査データが本研究課題で一部は利用できるため、そのデータを活用して研究を進めることにし、加えて、アーカイバルデータの利用も検討することにしたい。 また、研究の補助作業者(学生バイト)を不定期に雇用するなどして効率的に研究を進める予定であったが、現時点ではその雇用も難しい状況にある。代わりに、業務効率を高めるソフトウェアやデータ入力業者などを探りたい。 加えて、研究分担者等との打ち合わせにはonline meetingsを利用するなどして、研究を推進していきたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額が生じた理由は、当年度に予定していた聞き取り調査や研究打ち合わせに関する出張の回数を抑えたことがある。また、郵送質問票調査の実施を延期したことによって生じた。その金額は、次年度の調査や研究打ち合わせ等に充当することを予定している。
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