本研究は、我が国の経営者による業績予想情報の開示行動を分析することを目的としている。 2020年度までは、業績予想情報の開示のタイミング、修正パターン・回数・修正率、実績値との誤差などについて分析を行った。その結果、(1)業績予想情報の開示自体は任意であるものの、多くの企業は決算短信の例示様式に従って開示を行い、この制度的な仕組みが企業の適時開示を促進していること、(2)予想値に一定水準の差異が生じた場合は修正譲歩の開示が求められているが、多くの企業は修正すべき水準に達していなくても四半期決算等の開示と併せて積極的に修正情報を開示していること、(3)積極的で小刻みな修正はその分回数も多くなるが、予想利益と実績値との誤差は相対的に小さく、このような開示を促す現行の仕組みが経営者の的確な見込み利益の把握に繋がること、が明らかになった。これらの発見事項は、現行制度への批判があるものの、これを与件として、企業が情報開示の遅延によるペナルティを避けるために最適な情報開示戦略をとっていることを示唆していると考えらる。 以上を踏まえ、2021年度は予想利益の修正に対する株価反応をみることで、その情報内容について分析した。小刻みな修正を行う企業とそうでない企業とでは、情報開示態度が異なっているとみることができ、期中に開示される修正情報が有する情報内容に差が生じているのではないかと予想される。ただしこの分析においては、会社予想利益の修正開示の有無によるサンプルセレクション・バイアスが引き起こされることに加え、予想利益自体の修正方向や、修正後の数値が市場予想(コンセンサス予想)を上回るのか否かという点などを考慮することが求められるため、精緻なリサーチデザインを構築する必要がある。論文公表に耐え得る頑健な分析結果に辿り着くため、2021年度は以上の点を考慮しつつ、様々な検証を重ねた。
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