研究課題/領域番号 |
18K01955
|
研究機関 | 甲南大学 |
研究代表者 |
若林 公美 甲南大学, 経営学部, 教授 (20326995)
|
研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
|
キーワード | 会計情報の比較可能性 / 概念フレームワーク / 会計情報の質的特性 / 実証研究 / 情報の非対称性 |
研究実績の概要 |
本年度は、研究計画に基づき会計情報の比較可能性が投資家間の情報の非対称性の改善にプラスの効果をもたらすかどうか検証することを試みた。具体的には、昨年度の日本会計研究学会における研究発表を踏まえて、追加のデータ整備を行い、さらなるロバストチェックを行った。 その結果、De Franco et al. (2011)に基づき測定された会計情報の比較可能性と情報の非対称性を測る尺度であるビッド・アスク・スプレッドおよび非流動性尺度の間に有意なマイナスの関連性があることが明らかにされた。また、キャッシュ・フローに基づき測定された比較可能性の尺度を用いた場合や会計発生高の質をコントロールした場合においても、同様の分析結果が確認された。このことから、米国と同じく、わが国においても会計情報の比較可能性が証券市場にプラスの効果をもたらすことが支持された。一連の分析については、雑誌『會計』(2019年4月号)において「会計情報の比較可能性と投資家間の情報の非対称性」として論文を発表している。 さらに、会計情報の比較可能性が情報の非対称性を改善するという分析結果を受けて、経営者予想の正確性の分析に必要なガバナンス情報などコントロール変数の整備を行い、次年度の分析に備えた。ほかにも、経営者による現金保有の意思決定に会計情報の比較可能性が及ぼす影響を調査すべく、関連する先行研究のレビューやデータの整備などを進めた。現金保有と会計情報の比較可能性の分析に先立ち、まず、日本企業の現金保有の現状を確認した。その結果については、『甲南経営研究』(2019年-2020年)において「日本企業の ROE と財務政策(1)~(3)」として一連の論文を発表している。 このように、本年度の前半は会計情報の比較可能性が証券市場にプラスの効果をもたらすことを明らかにし、後半はさらなる研究課題を調査するための準備を行った。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、会計情報の比較可能性が証券市場にプラスの経済的効果をもたらすかどうかという課題に取り組んだ。具体的には、「会計情報の比較可能性が高い場合に情報の非対称性も低い」という会計情報の比較可能性に期待される証券市場へのプラスの効果か確認され、その研究成果を雑誌『會計』において発表した。 会計情報の比較可能性は、概念フレームワークにおいて質的特性の1つとして位置づけられ、比較可能性が高い場合に、会計情報の利用者の意思決定に資することが期待される。このことが、わが国のデータに基づいても支持されることが明らかにされたので、この検証結果に基づき、次のステップ、すなわち、会計情報の比較可能性がもたらすプラスの効果が、経営者の意思決定、すなわち経営者の予想情報にも影響を及ぼすかどうかという研究課題に取り組むべく、経営者予想情報に関する先行研究を渉猟し、データの整理を行った。さらに、経営者予想に対して会計情報の比較可能性が及ぼす影響を考察するための仮説の導出を試みた。 経営者予想の研究と並行して、会計情報の比較可能性と現金保有に関する研究を進めるべく先行研究を読み進めた。先行研究のレビューに着手するとともに、現在の日本企業の現金保有に関しても、データに基づき現状の確認を行った。その研究成果を『甲南経営研究』において発表した。 このように、本年度は本研究課題のベースになる分析を行い、次年度の分析への準備も進めていることから、本研究はこれまでのところおおむね順調に進展していると判断する。
|
今後の研究の推進方策 |
次年度は、本年度に準備した実証分析に取り組む。具体的には、会計情報の比較可能性が経営者予想の正確性に及ぼす影響や経営者の現金保有に及ぼす影響である。経営者予想に関する先行研究のレビューや仮説の導出は本年度に行ったので、次年度は会計情報の比較可能性が経営者予想に及ぼす影響を実証的に調査する。また、現金保有に関しては、現在主要な先行研究に関してはレビューが済んでいるので、今年度に残りの文献をレビューし、データの整備を行い、パイロットテストを実施する予定である。 また、昨年同様、実証分析のさらなる精緻化のために、分析と並行して関連の論文をレビューするとともに、分析に必要なデータの追加・整理を順次進めていく予定である。必要な場合には、分析のサジェスチョンを得るべく、専門家とのミーティングも行いながら分析の精緻化に努めていく。 さらに、実証分析の結果については、日本語のみならず、英語による論文の執筆にも取り組んでいく予定である。執筆した英語論文に関しては、国際査読ジャーナルに投稿する予定である。そして、論文の精緻化のために、学会や研究会などにおける研究報告も予定している。 ただし、新型コロナウィルスの影響で各種の学会や研究会が延期になったり、ウェブに切り替えられつつあるので、その影響を考慮しながら研究を進めていくことになる。
|