本年度は、財務情報の比較可能性がもたらす効果について、最新の先行研究を含めてレビューし、国際会計研究学会の全国大会における統一論題において先行研究から得られる知見として報告した。具体的には、財務情報の比較可能性が高いほど資本コストが低いこと、また将来利益反応係数が高いことを例証する研究を取り上げた。さらに、利益訂正を行った企業と行っていない企業の間での比較可能性が高い場合に、利益訂正を行っていない企業が将来、利益訂正を行う可能性が高いことやその情報が株価に織り込まれることについても紹介した。これらの研究は、財務情報の比較可能性が情報の非対称性を緩和し、投資家の意思決定を支援する役割に着目している。加えて、その他の役割に着目した研究についても報告した。例えば、先行研究では、相対的に比較可能性の高い企業はライバル企業の情報を参照して、自らのM&Aや研究開発投資を行うことから、その投資効率が高いことを例証している。さらに、比較可能性には経営者に対するモニタリング機能があることも併せて紹介した。 また、本年度は、昨年度から準備を進めてきた企業の現金保有行動に着目し、財務情報の比較可能性がもたらす情報提供機能とモニタリング機能について、日本企業のデータに基づく分析を行った。財務情報の比較可能性が高い場合に、情報の非対称性が緩和するならば、企業の資本コストは低くなることから、企業による現金保有水準はより低いことが予想される。分析結果は、この予想を支持するものであった。さらに、情報提供機能とモニタリング機能がそれぞれより強くあてはまるケースについて追加分析を行った結果、いずれの機能についても支持されることを明らかにした。この結果については、甲南大学経営学会編『新時代の経営学 : 甲南大学経営学部開設60周年記念論集』の第19章「財務情報の比較可能性と企業の現金保有」において発表している。
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