研究課題/領域番号 |
18K01956
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研究機関 | 北海道教育大学 |
研究代表者 |
角 一典 北海道教育大学, 教育学部, 教授 (10312323)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 河川 / 土木史 / 国土開発 / 河川官僚 / 河川法改正 |
研究実績の概要 |
本年度は、フィールドワークとして主に鶴見川(神奈川)・狩野川(静岡)・豊川(愛知)・長良川(岐阜)等における現地調査の他、奈良県のダム群や兵庫県の河川施設群の調査を実施した。鶴見川調査では、多目的遊水池の視察とともに、インフォメーションセンターで都市河川の氾濫の歴史および現状の対策について理解を深めた。狩野川は、主に沼津市の河口部を視察し、また、図書館での文献探索により、狩野川治水の歴史について理解を深めた。奈良県での調査は、昭和30年代の発電専用ダム整備を中核とする国土開発を理解する上で非常に貴重なフィールドワークとなった。また、上記に挙げた大河川の現地調査では、中世以降の都市形成や軍事拠点としての城郭との関連性が顕著に認められた。 文献調査は、主に日本の土木史および平成以降の主要河川官僚の論文や座談会などの記録を中心に進めた。前者については、主に戦国時代以降の土木技術、そして河川については治水および利水技術の飛躍的な向上によって江戸時代の長期の安定がもたらされたことや、明治維新以降、外国人技師の影響を受けつつ、主要河川での改修が粛々と進められると同時に、官僚機構の整備とともに治水と利水(農業と発電)との軋轢が生まれ、それが河川整備にとって負の効果をもたらしたことなどが明らかとなった。後者では、1997年河川法改正の中核に位置した官僚たちの発言を追うことで、国民が期待した河川のあり方と、河川官僚たちが描いた河川のあり方とのズレを見出すことができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究は主に戦後の河川をめぐる環境制御システムの変遷を追うことを目的に開始したが、近代以前も含めた土木史的な視点を盛り込むことで、河川が有する意味とその変化に関して、さらには土木技術の進歩と社会システムの変化との関連性について、より深い知見へと導かれることとなった。すなわち、明治初期においては江戸後期から荒廃しはじめた国土の修復(具体的には治水と農業利水)と、当時はまだ交通の中核であった舟運とが中心課題であり、近代化の進展とともに河川水を利用した発電が新たに目的として加わり、第二次世界大戦の敗北により再び荒廃した国土の修復と、工業の復興の基盤として巨大ダムによる発電が目指されたが、そうした変化は土木技術の向上を抜きに語ることは出来ないのである。社会科学的な研究でどこまで土木技術の要素を追求するかは若干難しい部分もあるが、この点は無視できない。 また、戦後二度行われた河川法改正のうち、1997年の改正に深くかかわった河川官僚たちの発言を追うことで、河川官僚たちの考え方を理解するとともに、国民とのズレが何に起因しているのかということについて、理解の糸口が見出されている。ひいては、それが河川をめぐる環境制御システムのあり方に大きく影響しているわけで、ここはさらに理解を深めなければならない。 しかしながら、計画の進捗はやや遅れていると評価せざるを得ない。最も遅れている部分は、河川関連の法整備および河川関連の審議会等の答申の整理である。また、本研究のテーマの一つである千歳川放水路以降の状況に関する調査は、残念ながら未だ着手できていない。
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今後の研究の推進方策 |
さまざまな河川や河川施設へのフィールドワークを重ねることで、文献のみでは理解しがたいことがいろいろと見えてくるので、さらにフィールドワークは積極的に実施したいが、ここからはより明確な目的意識を持ったフィールドワークとすることが必要と思われる。特に、戦後復興の担い手として期待された巨大河川の河川施設を観察することは、1964年の河川法改正との密接なかかわりがあるものと推察される。また、河川官僚の文献調査も、引き続き進める必要がある。これまでは主に1997年河川法改正にかかわった官僚たちを中心にみてきたが、当然、それ以前およびそれ以降の河川官僚の考え方を追う必要がある。戦後復興の担い手としての自負を強く持った戦後直後の河川官僚の思考と、環境を意識することを法によって義務とされた現代の河川官僚の思考を明らかにすることは、河川をめぐる環境制御システムを理解する上で必須の作業である。 また、当初の計画に鑑みると、河川関係の法整備や審議会等の答申などの追跡がいまだ十分に行われておらず、また、千歳川放水路以降の状況の追跡調査も実施できていないため、これらは早急に着手したい。 さらに、本研究の目的のひとつである、環境制御システム論の彫琢についても、十分に配慮しながら研究を進めたい。いかんせん、環境制御システム論自体が舩橋晴俊のオリジナルの議論であるがゆえに、舩橋の議論をベースにせざるを得ない一方で、舩橋が十分に展開しなかった応用に関する側面を重視して研究を進めたい。
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