研究課題/領域番号 |
18K01961
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
鶴巻 泉子 名古屋大学, 人文学研究科, 准教授 (70345841)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | カタルーニャ / ナショナリズム / ムスリム移民 / 人種化 |
研究実績の概要 |
本研究は、スペインとフランスにまたがる二つのカタルーニャ地域を例に、北アフリカ出身の住民に対する「宗教的人種化」のメカニズムとその規定要因を比較するものである。異なる国家に属しつつも共通のナショナリズム「カタルーニャ主義」を持つ両地域において、宗教的要素を通じた他者化のプロセスが、国家ナショナリズムと対抗ナショナリズム、そして両者の紛争的関係とに規定される様式に着目する。 本年度は特にフランス側調査とデータ分析に力を入れたが、その分析で明らかとなったのは、1.地域共同体表象の多重性(越境的言語文化空間;ルシヨンというフランスの伝統地域空間、ユーロリージョンとしての制度的カタルーニャ)2.政治的クライアンテリズムの存在と、それを通じた移住者やピエノワール、ユダヤ人、ジタン(ロマ)などの「コミュニティ」間分断、3.スペイン側カタルーニャに対する連帯の相対的欠如である。この地域では伝統的言語「カタルーニャ語」に対する愛着は歴史的に存在したものの、自分達を「カタルーニャ人」と自称したり、地域を「カタルーニャ」と呼んだりすることは、一部を除いて、ほぼなかった。ところが1990年代以降地域内で高まる「カタルーニャ主義」は、一方ではスペイン側カタルーニャの政治的過激化に触発され、他方ではフランス側の地方自治体の観光戦略に影響を受け、といった、非常に複雑な動きである。 スペイン側の、国家との対抗関係に特徴付けられた「カタルーニャ主義」とは違い、フランス側カタルーニャ主義は国家や地方自治体との協働を前提している。それはフランスの一地域であるカタルーニャ地域の「文化運動」であり、「土着の」「フランスの」文化を価値付けるものという了解が存在する。このコンテキストにあっては、北アフリカ系住民に対する表象は、地域固有のカタルーニャ主義に規定されるというよりフランスのナショナルなまなざしに規定されている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、二度の現地調査を行って基礎的資料・文献を収集した。まず前半期に両地域において、地元研究者の手による移民研究と、地元機関が発行する基礎的統計を収集すると共に、予備調査を実施した。後半期には、フランス側カタルーニャを中心とした聞き取り調査を開始した。特にフランス側に絞ったデータ分析と検討を行い、その成果は「北カタルーニャかルシヨンか?ーフランス・カタルーニャ地方から見た言語と境界-」(鶴巻 2019)に発表している。 他方では、スペイン側とフランス側双方における、「カタルーニャ主義」の歴史に関する研究論文のレビューを開始、それぞれ、表現は同じであっても(「カタルーニャ主義」)、それがなぜ国家との関係において対照的な表出の仕方を見せているのかを検討中である。 今後の調査先もほぼ絞れてきていること、それぞれの地域における主要な先行研究も順調に収集・レビューできていること、また両地域で他者化される、特徴的な2集団(「モロッコ系移民と子孫」「ジタン/ジターノ」)の比較検討を開始していることから、当初の予定どおり、研究はおおむね順調に進展、と判断することが可能と思われる。
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今後の研究の推進方策 |
来年度はスペイン側に重点を置いた調査を実施する予定である。ジロナ市を主要な調査地とするが、その他に、カタルーニャの主要機関が集中するバルセロナにも何度か赴いて、政治家、移民アソシエーション、カタルーニャ主義団体などに聞き取り調査を行う。ただし、ジロナ市は現在国外避難中の元大統領カルラス・プッチダモンの出身地域であり、カタルーニャ主義をもっともラジカルに表現する政党の牙城でもあるため、今後更に政治的混迷が深まり、思うような聞き取り調査ができないような事態が起こった場合は、別の中規模都市へ調査を一部移行することも視野に入れる。計画通りに調査を進められる場合は、ジロナ市内の移民組織だけでなく、ジターノ(スペインの地元出身ロマ人)組織での調査や、ジロナ郊外の移民集住地区(サルト)においても、聞き取り調査を行う予定である。
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