研究実績の概要 |
本研究はスペインとフランスにまたがる二つのカタルーニャ地域を例に,北アフリカ出身の移住者やその子孫に対する「宗教的人種化」のメカニズムとその規定要因を比較するものである。異なる国家に属しつつも共通のナショナリズム「カタルーニャ主義」を持つ両地域において,宗教的要素を通じた他者化のプロセスが,国家ナショナリズムと対抗ナショナリズム、そして両者の紛争的関係とに規定される様式に着目する。 本年度は特にスペイン側のカタルーニャでの調査、その統計と文献収集に力を入れた。2019年夏期にバルセロナ市での文献と資料収集、ジロナ市/サルト市での聞き取り調査と参与観察調査を行った。それを通じ、①スペイン側における「カタルーニャ主義」がフランス側の文脈と比較してどのような「他者化」ベクトルと紛争性を持つか、つまり統合イデオロギー/排除イデオロギーとしての「カタルーニャ主義」の検討を行うと同時に、②イスラムやムスリム移民がスペイン社会の中で持つ紛争性とイスラモフォビアの文脈について検討した。その結果、フランス側と比較して、スペインでは国家統合の問題で紛争性を持つのは「カタルーニャ主義」であり「イスラム」ではないこと、そしてスペインの文脈においては、「イスラム問題」と「移民問題」とが切り離されて議論されていることがフランスと比較した時の最大の特徴であることを確認した。またスペインにおいては、イスラム過激派によるテロ事件がネイションをめぐる集合的記憶の中で議論されないことも確認した。移住者から見た「人種化」は、「イスラムをめぐるネイションの記憶」ではなく、「スペインとモロッコ」「カタルーニャとモロッコ」をめぐる関係史において論じられる。調査成果の一部は既に発表した(:鶴巻泉子「『イスラモフォビア』とナショナルな文脈化」『Autres』11号, 2020, 19-34)。
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