研究課題/領域番号 |
18K01961
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
鶴巻 泉子 名古屋大学, 人文学研究科, 准教授 (70345841)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | カタルーニャ / ナショナリズム / ムスリム移民 / 人種化 |
研究実績の概要 |
本研究はスペインとフランスにまたがる二つのカタルーニャ地域を例に、北アフリカ出身の移住者やその子孫に対する「宗教的人種化」のメカニズムとその規定要因を比較するものである。異なる国家に属しつつも共通のナショナリズム「カタルーニャ主義」を持つ両地域において、宗教的要素を通じた他者化のプロセスが、国家ナショナリズムと対抗ナショナリズム、そして両者の紛争的関係とに規定される様式に着目する。 コロナ禍により昨年3月以降は現地調査が不可能な状況が続いているため、書籍や論文、統計資料等を用いて分析を続行した。本年度は昨年度からの問題意識として、①スペイン社会の中での移民・イスラムをめぐる言説の特徴の検討と、②スペイン・カタルーニャ主義に固有の他者化のダイナミズムについて検討を続け、かつそれに加えて③1990年代以降の移民とイスラム問題の「ヨーロッパ化」が両国内でもたらした影響を比較検討した。特に、③の事例として「イスラム・スカーフ問題」を取り上げ、両国での1.議論に動員される知識人層の違い、2.当事者となる移民出自の世代と階層の違い、3.ムスリム団体組織化の違い、4.「世俗主義」の社会編成における機能の違いを確認した(:鶴巻泉子「スペインの<スカーフ論争>:ヨーロッパ化と国内の文脈の間」『Autres』、n.12、2021、1-17)。両国のカタルーニャにおけるムスリム移民表象は、このようなナショナルな文脈に規定されており、それがさらにヨーロッパレベルでのイスラム表象に規定されるという重層的な関係が存在することが分かった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
本研究が分析対象とするフランスとスペインは、ヨーロッパの中でも新型コロナウィルス感染拡大による甚大な被害を受けている地域であり、状況は現在もまだ改善されていない。現地調査が不可能であることに加え、政治、社会状況が著しく流動的であり、今現在の状況を直接分析の対象に含めることは難しく、むしろ歴史的に遡って検討を加えることが研究の方向性にとっては望ましいと考えられる。そのため研究計画を一部修正すると共に研究の延長を申請、現在は当初の予定にはなかった移住の歴史的文脈の検討を行っている。
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今後の研究の推進方策 |
現地調査が不可能な状況が続き、調査再開の時期が見通せない中、必要な論文や資料もネットで入手するには限界があるため、改めて両国・両地域について等しく遠隔で入手可能な資料総体の比較検討を進めると共に、遠隔でのインタビュー可能性も検討したい。その上で、感染状況の変化を見定めつつ、研究計画の修正を早急に行っていきたいと考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究の性格上、多くの予算を調査費に計上してあり、また国内での出張を複数回予定していたが、コロナ禍のために現地調査が実施できず、また国内移動もできず文献調査のみを行ったため予算支出が困難であった。
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