研究課題/領域番号 |
18K01962
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
岩佐 卓也 神戸大学, 人間発達環境学研究科, 准教授 (00346230)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | ドイツ / 労働 |
研究実績の概要 |
2020年度は論文「コロナ危機と資本主義 : クライリンガー他著『コロナ・危機・資本』を読む」(労働総研クォータリー118号)を発表し゜コロナ危機下における労使対抗とあるべき政策課題について概略した。要旨は下記の通りである。 1.「コロナウィルスと人類との闘い」といわれる。なるほどウィイルス自体は人を差別しない。しかし感染拡大の具体的な現れは、資本蓄積の論理、すなわち資本の利益を労働者・住民の利益に優越させようとする論理に強く規定されている。ロックダウン等の封じ込め措置の開始からその緩和にいたるプロセスにはそのことが現れている。職場における保護措置は十分であるか、といった検討は重視されていなかった。 2. 各国政府の感染を封じ込め政策における死角の一つが職場であった。各国政府は「家にとどまり、自身の行動様式を変えよ」という「個人化されたアピール」をさかんに行った。しかしそこで無視されているのは、多くの人々が、所得を維持するために、または職を失わないために出勤せざるをえないという構造である。クライリンガーらはこのことを指摘していく。またイタリアをはじめ、スペインやアメリカでも、労働者を感染リスクにさらすことに抗議するストライキが起きている。 3.クライリンガーら「連帯的なパンデミック封じ込め戦略」、すなわち労働者や社会的弱者の健康と不利益を中心にすえた戦略を示している。これは日本にとっても示唆するところが多い。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初の研究計画では、ドイツ現地へのインタビューを行い、その後理論的な検討を行う予定であったが、コロナ危機により大幅に計画の再検討を余儀なくされた。そのため進捗はやや遅れている。オンラインでのインタビューの可能性も含めて当面困難が予想されるため、文献調査を中心として、ドイツの労働条件規制についての検討を行いたいと考えた。また、コロナ危機はそれ自体が労働条件規制の新しい枠組みを与える契機となっている。そこで、2020年度はコロナ危機におけるドイツの労働条件規制の変容を分析することにした。これは学問的のみならず社会的にも意義があるものと考えている。 いつかの文献を調査し、上述した論文では、コロナ危機と職場の関係などを分析したVerena Kreilinger et.al,Corona, Krise, Kapital 2020を検討した。 この知見を基礎として、さらに2020年におけるドイツ食肉産業の状況を調査した。2020年5月以降ドイツ各地の食肉工場でコロナウイルスの感染が急速に拡大したことにより、食肉産業における請負問題が世論の注目するところとなった。そこでは、感染拡大の大きな要因の一つに、食肉産業における「組織化された無責任」、すなわち請負の広範な活用が感染対策の責任を曖昧にしていることが挙げられた。そうした批判の高まりを受け、同年12月に、翌2021年1月から食肉産業における請負を禁止する新しい規制、「労働保護監督法」が成立した。 この研究については学会報告を行う予定である。
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今後の研究の推進方策 |
前述のように研究計画の修正を余儀なくされたため、今後は文献研究を中心として下記のテーマに取り組みたい。 1.コロナ危機と労働組合・労働政策:前述のようにコロナ危機はそれ自体が労働条件規制の新しい枠組みを与える契機となっている。すでに調査を進めている食肉産業を出発点に、されに小売業、旅館飲食業などコロナ危機の影響がとくに大きい産業部門について検討を行いたい。これらの産業部門では業績の大幅な悪化が労働協約交渉に影響を及ぼすと考えられる(小売業においてはこの間進行してきたネット通販の拡大がいっそう促進されている)。また、この間注目されているホームオフィス化には比較的馴染まない業態であるため職場における感染対策もテーマとなるであろう。 2.比較労使関係論:ドイツについての現地調査ができないため、視点をよりマクロにおいて、欧米諸国を範囲とした比較労使関係について検討を行いたい。注目する点は、協約拘束率の低下である。これはドイツの近年の労使関係の大きな特徴であるが、その現象はドイツに限らない。しかし、協約拘束率低下の進むスピードや形態、そしてそれに対する緒アクターの行動は各国ごとの相違がみられる。たとえば、協約拘束率低下に対して、ドイツでは協約規制の事業所ごとの適用除外を認める傾向があるが、これはドイツに顕著である。比較労使関係の視点を加えることで、ドイツの特殊性と普遍性が明らかになると期待される。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ禍のなか、研究計画で予定していたドイツへの現地調査が行えなくなったため 。
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