研究課題/領域番号 |
18K01962
|
研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
岩佐 卓也 神戸大学, 人間発達環境学研究科, 准教授 (00346230)
|
研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2023-03-31
|
キーワード | コロナ / ドイツ / 請負 / 産業部門 |
研究実績の概要 |
2021年度は、社会政策学会第143回大会において、「コロナ危機下におけるドイツ食肉産業 ―「組織化された無責任」をめぐって」として発表した。コロナウィルスの感染が拡大する場として重要なのが職場である。長時間の密集だけでなく、所得減少や雇用喪失を恐れて労働者は感染リスクを犯してでも出勤を強いられるという構造がある。これは交渉力の弱い労働者についてとくに当てはまると考えられる。ドイツの食肉産業はこうした問題状況が鮮明に現れた事例である。2020年4月以降各地の食肉工場で感染が急速に広がり、その大きな要因として「組織化された無責任」が指摘された。すなわち、労働者の多くが東欧諸国から請負を通じて調達されており、この請負の広範な活用が感染対策の責任を曖昧にしてきた。そして2021年から食肉産業における請負を禁止する法律が成立した。本報告では、これらを素材として、コロナ危機において労働問題が独特な形で展開するプロセスを明らかにした。 また、ドイツの労働協約システムにおける「産業部門」の動向について研究を行った。これは2022年度に学術雑誌に掲載される予定である。ドイツにおいて多くの労働協約は産業部門を単位としている。そのうち最大のものである「金属・電機」部門においては、IGメタルとゲザムトメタル傘下の使用者団体を協約当事者とする横断的労働協約が締結され、これが相対的に高い水準の労働条件を規制してきた。しかし、メーカー企業が従来の直接雇用に代えて、長期契約型ロジスティクスを外部企業にアウトソーシングする傾向が続いている。このアウトソーシングにより、これまで金属・電機部門の労働協約によって規制されていた範囲は縮小する。これに対してIGメタルは、アウトソーシングされたロジスティクス企業において従業員を組織し、企業協約を締結する運動を展開している。本研究ではこれらのことを分析した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
研究申請時にはドイツでの現地調査を行う計画であったが、コロナ禍のため、大幅に研究計画を修正せざるをえなくなった。研究申請時にはドイツでの現地調査を行い、それを踏まえて労働条件規制の理論的検討を行う計画であったが、コロナ禍のため、大幅に研究計画を修正せざるをえなくなった。すなわち、文献資料を中心として、ドイツの労働条件規制に関わる諸動向について検討を行い、それらを素材としつつ、労働条件規制の現代的諸条件を明らかにする研究計画へと変更した。 2021年度までに、日本における企業横断的交渉の実態、コロナ危機を関するドイツでの議論状況、コロナ危機下のドイツ食肉産業における新たな労働条件規制の動向、ドイツ労働協約システムにおける「産業部門」の動向、について研究を行ってきた。 これらの研究を通じて、制約があるなかで、労働条件規制をめぐる新しい論点を呈示することに一定貢献できたと考えている。すなわち、コロナ危機において、労働条件の問題が顕在化し、従来は困難であった労働条件規制が登場していること、企業行動の変化とともに従来のドイツにおける「産業部門」の枠組みが動揺していること、などである。しかし、理論的な検討は未だ不十分であるため、「やや遅れている」と自己評価している。
|
今後の研究の推進方策 |
前述の通り、研究申請時にはドイツでの現地調査を踏まえて労働条件規制の動向を分析する計画であったが、コロナ禍のため、大幅に研究計画を修正せざるをえなくなり、そのため文献資料を中心として、ドイツの労働条件規制に関わる諸動向についての研究へと研究計画を変更した。今後もそれを継続してゆく予定である。2021年度までに、日本における企業横断的交渉の実態、コロナ危機を関するドイツでの議論状況、コロナ危機下のドイツ食肉産業における新たな労働条件規制の動向、ドイツ労働協約システムにおける「産業部門」の動向、について研究を行っており、制約があるなかで、労働条件規制をめぐる新しい論点を呈示することに一定貢献できたと考えている。 しかし同時に、これらのテーマを統合して把握する視点、すなわち労働条件規制の現代的な諸条件の性格はいかなるものであるかについては、まだ十分に論じることができていない。今後は、これらを進めていきたい。研究を進める上での課題は、このテーマについてのドイツの議論状況のサーヴェイである。たとえば Christoph Schmitz氏やHans-Juergen Urban氏らが論じる「コロナ後の労働政策」が挙げられる。 また、コロナ危機で拡大した「ギグワーク」をめぐって、労働組合の組織化や労働組合による交渉、ストライキが非常に困難になっていることが指摘されている。この問題についても検討を行いたい。
|
次年度使用額が生じた理由 |
研究申請時には調査旅費として計画していた分が、コロナ禍のため使用できなかったため。
|