研究課題/領域番号 |
18K01962
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研究機関 | 専修大学 |
研究代表者 |
岩佐 卓也 専修大学, 経済学部, 教授 (00346230)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | ドイツ / 労使関係 |
研究実績の概要 |
社会政策学会第146回(2023年度春季)大会の共通論題おいて、「法定最低賃金と労使関係 -国際比較による検討」を報告した。要約は下記の通りである。 今日、世界的に低賃金労働が拡大するなか、法定最低賃金(以下、最賃)の役割が注目され、その新規の導入や水準の引き上げが相次いで行われている。本報告は、現在最賃制度を有しない国を含めた、スウェーデン、イタリア、イギリス、アメリカ、日本、ドイツ、スペイン、フランスの 8 ヶ国における最賃と労使関係の動向について紹介し、比較検討を行った。 本報告が注目したのは、第一に、最賃と労使関係の相互関係である。低賃金労働に対しては、最賃(法律)による規制と、労使関係(労働協約)による規制がある。両者の関係をどのように理解し、制度上・運用上位置づけるかは、国やアクターによって様々である。一方では最賃と労使関係の緊張関係が、他方では補完関係が問題となる。 第二に、本報告は最賃の決定方式に注目した。多くの国では最賃水準の決定において審議会等を通じて労使団体が関与している。しかしその自律性や政府・議会の関与は各国で異なり、かつ変化している。 これらの視点に基づき、本報告は、各国の動向は多様であるが、しかし労働協約の低賃金労働に対する規制が脆弱化し、それにともない最賃の役割が増大していること、最賃決定における政治の役割が増大しているこ、最賃の基準としての「生活賃金living wage」論が重要性となっていること、といった傾向を明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究申請時にはドイツでの現地調査を行う計画であったが、コロナ禍のため、大幅に研究計画を修正せざるをえなくなった。研究申請時にはドイツでの現地調査を行い、それを踏まえて労働条件規制の理論的検討を行う計画であったが、コロナ禍のため、大幅に研究計画を修正せざるをえなくなった。すなわち、文献資料を中心として、ドイツの労働条件規制に関わる諸動向について検討を行い、それらを素材としつつ、労働条件規制の現代的諸条件を明らかにする研究計画へと変更した。 2023年度までに、日本における企業横断的交渉の実態、コロナ危機に関するドイツでの論状況、コロナ危機下のドイツ食肉産業における新たな労働条件規制の 動向、ドイツ労働協約システムにおける「産業部門」の動向、最賃と労使関係の国際比較について研究を行った。その後、ドイツの最賃制度の動向、ポストコロナ、労働力不足といった条件下におけるドイツの労働協約交渉の変容について研究を行っている。 これらの研究を通じて、制約があるなかで、労働条件規制をめぐる新しい論点を呈示すことに一定貢献できたと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
前述の通り、研究申請時にはドイツでの現地調査を踏まえて労働条件規制の動向を分析する計画であったが、コロナ禍のため、大幅に研究計画を修正せざるをえなくなり、そのため文献資料を中心として、ドイツの労働条件規制に関わる諸動向についての研究へと研究計画を変更した。今後もそれを継続してゆく予定である。2023年度までに、日本における企業横断的交渉の実態、コロナ危機に関するドイツでの議論状況、コロナ危機下のドイツ食肉産業における新たな労働条件規制の動向、ドイツ労働協約システムにおける「産業部門」の動向、最賃と労使関係の国際比較について研究を行っており、制約があるなかで、労働条件規制をめぐる新しい論点を呈示することに一定貢献できたと考えている。 その後、ドイツの最賃制度の動向について研究を進めている。ドイツでは2015年における最賃導入以来、2016年、2018年、2020年に最賃委員会による引き上げが行われ、2022年には法改正による12ユーロへの引き上げ行われ、2023年には再び最賃委員会による引き上げが行われている。これらそれぞれについて、関係当事者の主張や交渉のプロセスを分析している。とりわけ2022年の法改正による12ユーロへの引き上げは、通常の改定方法とは異なる形を取り、引き上げ幅も大きく、多くの議論を引き起こした。それは最賃と労働協約の関係をどのように位置づけるのかをめぐる本質的な問いを含んでいる。 また、ポストコロナ、労働力不足といった条件下におけるドイツの労働協約交渉の変容についても研究を進めている。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究申請時には調査旅費として計上していたが、コロナ禍のため研究計画の変更を余儀なくされた。2024年度にドイツでの調査旅費として使用する予定である。
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