本研究では、東日本大震災の被災者にみられる罪悪感について、その社会的背景と変容プロセスを実証的に明らかにし、被災者への社会的承認という観点から罪悪感の克服の道を提案することを目的とした。その際に、本研究では、被災者の罪悪感の成り立ちについて、①原初的な共同性の反映、②社会的交換における不均衡、③否定的な世論の内面化という3つの水準から分析し、それぞれの特質と関連性を明らかにした。 先行研究を見る限り、こうした生存者罪悪感の3水準は、原爆や公害病の被害者にも共通してみられることを確認した。①の原初的な共同性に関しては、個人の婚姻戦略(DNAの複製戦略)の自己利益に対する罪悪感とムラの共同利害からの逸脱がもたらす罪悪感とが複雑に入り混じっていることが分かった。 また、これらの3水準の罪悪感を関連づけて考察する視点として、「公正世界観」が有効であると仮説を立てた。「ある人が受けた被害には、それにふさわしい過失があるはずだ」とするこの考えは、被害者が自分自身に対して自罰的に適用する場合もあり、また被害者バッシングなどの形で第3者が他罰的に適用することもある。こうした公正観の歪みが、①個人レベル、②対人レベル、③世論レベルで循環的な影響関係を有することで、避難者罪悪感を生じさせていると考えられた。また原因や犯人が不明確である場合ほど、公正世界観は強化されやすいことから、原発事故のように東電や政府が責任を不明確なままにしているケースでも、罪悪感は深刻になると考えられた。
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