公害患者運動の実証研究として、「倉敷市公害患者と家族の会」(以下、「患者会」)を事例として、組織化 (資源動員構造)、政治的機会構造、文化的フレーミングの視点からの分析を行った。患者会の前身は、「倉敷市公害病友の会」(以下、「友の会)の結成は、患者であるとともに公害による被害者であることを可視化させた公害被害者の組織化への第一歩であった。そして名称を変えた「患者会」は、公害被害による公害患者であることを認識させ、公害患者運動の主体としての自覚を芽生えさせた。名称を変更した契機は、倉敷市が市条例を廃止する方針を打ち出したこと、補償法の地域指定が廃止されることに対する危機感にあったが、その名称変更は、運動の主体が公害患者にあることを自覚させ、公害患者として明確に自立し、闘う組織へ変化するという大きな意味があった。本研究の成果を、「『倉敷市公害患者と家族の会』の軌跡」(除本理史・林美帆編、2022『「地域の価値」をつくる-倉敷・水島の公害から環境再生へ』(東信堂)として刊行した。 公害問題の理論研究として、公害問題というフレーミングの再解釈を試みている。具体的には、加害者や被害者という特定の立場から過去を解釈するのではなく、関係性の多様性を支える価値の多元性を視野にいれた多声性(polyphony)、多様な視点からの解釈を共有しつつ過去からの学びを促す多視点性(multi perspectivity)について検討している。公害問題が発生したのは歴史的事実ではあるが、その問題には直接、間接的に関わった立場の異なる複数の人がおり、その人たちは各々に異なる認識を持っている。それらの認識を総体としてとらえるだけでは、問題の本質が曖昧となる。まずは多様な認識、解釈をひもときながら、公害問題の経験を継承し、再び公害がおこらない、公害をおこさないための理論化を模索している。
|