研究課題/領域番号 |
18K01969
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研究機関 | 駒澤大学 |
研究代表者 |
山田 信行 駒澤大学, 文学部, 教授 (80287002)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 資本主義 / 移行 / 労使関係 / ポスト資本主義 / 労働者協同組合 / 日本 |
研究実績の概要 |
2019年度においては、前資本主義から資本主義への移行に関する理論的研究と、資本主義からポスト資本主義への移行に関する理論的研究をあわせて行った。 前者については、これまで自らの研究である「労使関係の歴史社会学」を批判的に再検討し、必ずしも資本主義への移行は前資本主義的社会関係の解体によって完結するわけではなく、むしろ前資本主義的社会関係が資本主義においても存続することこそが、移行を成功させる可能性があることを提起した。換言すれば、前資本主義的社会関係に内在する、いわゆる「モラル・エコノミー」を可能にする関係が資本主義への移行をかえって容易にし、移行期の終了後においても、労使関係を安定させる可能性があることを指摘した。 とりわけ、日本のように、前資本主義社会における支配階級が資本主義のもとで資本家に転換したような社会においては、前資本主義的社会関係が強固であるために資本主義への移行に時間がかかる一方で、ひとたび移行が完了すれば、そうした「長期的に」残存する前資本主義的社会関係が資本主義に効率的に寄与することになろう。この試みは、移行論において、ネオ・ポランニー主義的な視点を導入することを意味する。さらに、「モラル・エコノミー」を可能にする関係が最終的に解体されてしまうことが、資本主義の限界を提示することも示唆した。 後者については、ポスト資本主義社会が資本主義社会を存立させる構造の転換によって可能になることを確認したうえで、労働者協同組合が資本主義のもとでの自由な賃労働という構造とは異なる関係によって運営されていることに注目し、あらためて労働者協同組合がポスト資本主義的な構造の一部となりうることを理論的に確認した。そのうえで、日本における労働者協同組合の歴史的展開を把握することに努めた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
大きな支障もなく、研究に取り組めていることが、理由である。
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今後の研究の推進方策 |
2020年度においては、これまでに獲得した理論的知見を、日本における歴史的・具体的な事例を検討することを通じて、経験的に検証する作業を進めていくことになる。 資本主義への移行については、有賀喜左衛門などの農村社会学の古典を検討することを通じて、前資本主義社会における地主-小作関係にあっても「モラル・エコノミー」が確かに存在していていたことを確認し、地主が企業経営を行うことを通じて、そうした関係が資本主義的な労使関係にも持ち込まれていたことを明らかにしていく。加えて、こうしたプロセスを通じて、いわゆる「経営家族主義」が成立する可能性があることを提示したい。 そのうえで、資本主義の初期局面に加えて、移行期が終了した後の状況についても、戦後期、高度成長期、企業社会が形成された安定成長期、国際化が進展する1980年代、およびネオリベラリズムが台頭する1990年代以降などについて、得られた知見の意味を検討するプランを考えたい。 ポスト資本主義社会については、継続して日本を事例に労働者協同組合の実情について、検討していくことになる。本年度については、いくつかの事例を集約的に検討することを考えたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
発注した図書の刊行が遅れ、図書費の請求が次年度になったため。最終年度までには、全予算を使い切ることは可能である。
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