研究課題/領域番号 |
18K01983
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研究機関 | 関西大学 |
研究代表者 |
谷本 奈穂 関西大学, 総合情報学部, 教授 (90351494)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 美容整形 / 関係性 / 医療 / 女性 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、「医療化」が進展する社会において、美容を目的とした医療(美容外科手術、およびメスを使わない美容医療)の実態を調査し、美容目的の医療の社会的意味とそのメカニズムを明らかにすることである。方法は、多角的な研究手法を組み合わせた混合研究法を用いる。具体的には、アンケート調査、インタビュー調査、メディアの内容分析(テキストマイニング)、文献調査を組み合わせた方法である、また、その際、クライアントの「内面」だけに注目せず、クライアント同士の人間関係、医者とクライアントの関係、医者同士の関係など、各アクターの「関係性」に焦点を当てることも意図している。 さて、2018年度の研究実績としては、第一に、単著『美容整形というコミュニケーション――社会規範と自己満足を超えて』(花伝社、2018年6月19日)の出版が挙げられる。次に、編著『身体化するメディア/メディア化する身体』(風塵社、2018年10月25日)の出版も挙げることができる。 まず、前者『美容整形というコミュニケーション』は、まさに美容整形という現象に関して、アンケート、インタビュー、メディア情報のテキストマイニングを組み合わせて調査したものである。この著作において、クライアント同士に親密な人間関係があること、医者とクライアントには権力関係があること、医者同士には競合関係があることを発見した。それぞれのアクターの「関係性」に焦点を当てた調査結果であり、本研究課題そのものを表した著作といえる。 次に、後者『身体化するメディア/メディア化する身体』は、身体とメディアの関係を考察した著作であり、女性たちを美容に駆り立てるメディアの言説を明らかにしている。 いずれも、研究目的に合致した調査を行なっており、かつ、書籍として刊行されることで社会的なインプリケーションを持つ、意義のある実績となっている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画では、2018年度は「メディア分析と法令の調査」、2019年度は「国内のアンケート調査」、2020年度は「国際比較調査」を考えていた。したがって、2018年度は、文献収集を中心に行う予定にしていた。しかし、本務校において2019年度にオーストラリアへの在外研究が決定したので、計画の順序を変更することにした。主として、2019年度は「国際比較調査」の準備に充てる方が良いと考えたからである。 具体的には、韓国内のクリニックで美容整形を受けることを希望するクライアント(インフォーマント)を探し、2018年8月6~8日に韓国へ同行して、フィールド調査を行った。そこでは、クリニックで施術を受ける日本女性が大勢いることを発見し、彼女たちを観察した。また同行を許可してくれたインフォーマントに対して非構造化インタビューを行っている。これらのデータは、今後の調査において参考となるだろう。 また、8月18~23日にはメルボルン大学にいき、オーストラリアでの調査可能性について打ち合わせを行った。美容整形の盛んな国として韓国、ブラジル、アメリカなどが考えられており、オーストラリアはさほど盛んではないと考えられてきたが、今やメルボルン(都市部)でも美容クリニックが点在している、また多文化主義を掲げてきたことで多くの移民が存在することで、民族の違いによる美意識の差が顕著であり、各クリニックもそれぞれの特色を出していることも打ち合わせの中で判明し、国際比較研究への足がかりを得た。 研究計画自体は順序を入れ替えたが、研究自体は概ね順調に進展しているといえる。
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今後の研究の推進方策 |
「現在までの進捗状況」でも述べたが、研究計画の順序を入れ替えている。元々の計画書では、2019年度は「国内調査」を考えていたが、二つの方向性の研究を推進することにしたい。一つは、2020年に行う予定だった「国際比較調査」を先取りすること、およびもう一つは2018年度に行う予定であった「メディア分析」を行うことである。 具体的には、まず「国際比較調査」に関することとして、アンケート調査の項目を作成する。従来行ってきた質問項目に加えて、新たな視点に基づいた項目を作成するつもりである。そしてメルボルンに滞在している利点をいかしてワークショップを開催し、メルボルン大学および近隣のモナシュ大学の研究者と意見交換を行うことで質問項目の洗練を図る。さらに、そこで得た知見を日本の研究会にも持ち帰り、研究内容をブラッシュアップすることを予定している。可能であれば実査まで行いたい。 次に「メディア分析」に関することとして、ウェブ言説の分析を行うこととする。近年、美容整形情報の供給源に、雑誌やテレビといったマスメディアだけではなく、インターネットを通じたウェブ情報が重要になってきている。2018年度の韓国フィールド調査で、日本女性の多くが(日本ではなく)韓国で美容整形手術を受けていることを見出したが、彼女たちの主な情報源にSNSを中心とするウェブ情報があった。その点に注目し、美容整形とウェブ言説(SNS言説)の関連についてテキストマイニングを行う。ウェブの言説であれば、海外にいても比較的アクセスしやすいことから、実行可能性が高いと考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
「現在までの進捗状況」にも書いたが、当初の計画では2018年度は「メディア分析と法令の調査」を行う予定であったが、本務校にて在外研究(2019年度)の機会を得たことから、計画した研究順序を変更し、2018年度は国際比較調査の準備に充てた。そのことで、購入する物品を減らし、海外でのフィールドワークと打ち合わせを重点的に行うことになった。結果としては、ほぼ請求金額と同じ額を使用したが、計画の変更ゆえに、少々の誤差が生じてしまい、2540円の残りが出た。特に韓国へのフィールドワーク(韓国で美容整形を受けるインフォーマントへの同行調査)が、インフォーマントの個人情報保護のため、旅費の一部(航空運賃など)を自費で支払っていることも理由の一つである。 2019年度は元々の請求金額と2540円を合わせて、メディア分析と国際比較調査の二つの研究を進めていく予定である。研究順序は変更したが、研究目的および内容は変わっていない。2019年度も助成金を無駄のないように使用したい。
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