研究課題/領域番号 |
18K01983
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研究機関 | 関西大学 |
研究代表者 |
谷本 奈穂 関西大学, 総合情報学部, 教授 (90351494)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 美容整形 / 身体 / 女性 |
研究実績の概要 |
昨年度も同様のことを記したが、本研究の目的は「医療化」が進展する社会において、美容を目的とした医療(美容外科手術、およびメスを使わない美容医療)の実態を調査し、美容目的の医療の社会的意味とそのメカニズムを明らかにすることである。方法は、多角的な研究手法を組み合わせた混合研究法を用いる。具体的には、アンケート調査、インタビュー調査、メディアの内容分析(テキストマイニング)、文献調査を組み合わせた方法である。 さて、2019年度は、本務校の在外研究の奇形を得たこともあり、海外での調査を行いながら、論文の執筆も同時に行った。9月には1週間ほど一時帰国し、日本の研究会にて、研究の報告も行なった。具体的な研究実績としては、 3本の論文、1本のコラム、1本のウェブ記事を執筆した。特に「調査に見る美容整形の諸相」(『現代思想』2020年3月臨時増刊号 総特集フェミニズムの現在、青土社、2020年2月18日)はこれまでの調査を小括した論文になっている。「美容整形のきっかけとは?」(『社会学で描く現代社会のスケッチ』みらい、2019年8月20日)は教科書の1章として大学生に伝わるような議論を執筆した。また、美容整形に関わる取材(テレビ、雑誌、ウェブ雑誌)をたくさん受け、社会的な意見発信も行なった。なお、2020年度の業績になるが、関連の論文が2020年4月、5月に相次いで出版される予定である。 いずれも、研究目的に合致した論文執筆を行なっているといえる。かつ、書籍やウェブ上に刊行されることで、社会的なインプリケーションを持つ、意義のある実績といえると考える。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2019年度の研究計画は二つにまとめていた。一つは「国際比較調査」を行うこと、もう一つは「メディア分析」 を行うことである。 まず「国際比較調査」では、メルボルンにおけるクリニックについて非参与観察を行った。また、先住民の刺青などの身体加工についても情報を収集した。さらに滞在したメルボルン大学にてワークショップを2回開催し、多くの研究者と意見交換 を行った。いずれも研究に示唆を与える情報を手に入れたが、論文はまだ構想段階にある。 次に「メディア分析」では、ウェブ言説の分析を行った。近年、美容整形情報の供給源に、雑誌やテレビといったマスメディアだけでは なく、インターネットを通じたウェブ情報が重要になってきている。そのことを受けて、具体的には美容整形について書かれたツイッター言説を、プログラミングを用いて収集し、テキストマイニングを行った。その研究成果については2020年4月に刊行されている。 研究の終盤、コロナウィルスによる混乱のため在外先から予定を繰り上げて帰国せざるをえなかったが、研究推進の阻害要因があったものの、研究計画に立てた「国際比較調査」および「メディア分析」は、概ね順調に進展しているといえる。
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今後の研究の推進方策 |
2020年度は、最終年度にあたることから、研究の総括を行いたい。すでに行ってきたアンケート調査の詳細な分析を通して、美容を目的とした医療の実態を調査し、美容目的の医療の社会的意味とそのメカニズムを明らかにする。 もし、年度内にコロナウィルスによる混乱が収束すれば、2019年度の調査で若い女性が韓国の美容整形の影響を受けていることがわかったので、韓国にて美容整形クリニックのフィールド調査を続行したい。また、すでに知己を得たメルボルン大学にて女性の身体と美容に関するワークショップを行うことも予定している。 ただし、コロナウィルスによる混乱が継続し、海外渡航が困難な場合も考えられる。その場合は、国内での調査票調査に切り替えて、より詳細で広範囲にわたる調査を行う。2019年度に「メディア分析」を行なったが、ウェブ言説の影響の大きさは、近年より大きくなってきたことを鑑みて、大規模なSNSへの調査を行う。 国内・国外の情勢を見ながら、二つのパターンを考えているので、その都度、柔軟に対応していきたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
インタビューなどの謝金を用意していたが、インフォーマントが厚意で受け取らないことも多々あったこと、年度の終盤、コロナウィルスにより、在外先のオーストラリアがロックダウンを実施し動きが取れなくなったこと、予定を早めて帰国したが、そこから2週間は自宅待機となりまた動けなかったことにより、差額98,364円が生じた。混乱するよりも前の時期に、調査などを済ませていたので、比較的大きな影響を受けずに済んだが、差額は最終年度に吸収して、研究の総括を行なっていきたい。 海外渡航が可能であれば、韓国でのフィールドワーク、オーストラリアでのワークショップを行う。海外渡航が無理な状況であれば、大かがりなウェブ調査を行う。
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