2020年度は、新型コロナ感染症による世界的なパンデミックのために、予定していた海外調査やインタビューなどは全てキャンセルとなった。そこで、薬物政策の国際NGOが運営するオンラインのウェビナー(Webセミナー)などによって、現在の状況下においてPUD(最近はPWUDとも呼ぶ)がどのように活動しているのかに関する話し合いなどに参加し、情報のアップデートを行った。とくにロックダウンされた欧州の都市におけるPUDの活動は制約を受けているものの、ハーム・リダクションの支援組織はそれらの団体と連携しつつ、その状況下における薬物使用者のニーズや現状調査などを行い、それを広域で共有するなどの活動を行っていることが判明するなど、コロナ禍ゆえの新たな情報収集経路の確立がなされたといえる。 また、これまでの調査研究を踏まえ、いくつかの研究成果の公表を行った。まず、日本社会学会の機関誌『社会学評論』で、「脱逸脱をめぐる当事者活動の社会学」と題した特集を組み、その序文に、ハーム・リダクションやPUDの活動について論じた。この特集は薬物使用だけでなく、セックスワークや異性装、ひきこもりなど、これまで逸脱とされてきた活動の当事者や支援者の論文によって構成され、これまでにない特集として好評を得たが、それによって本研究課題の新しさや一般性を示すことができたと考えられる。さらに、2020年度中に刊行される予定だった国際的な薬物政策の研究書(全世界で30名以上が執筆予定)の原稿を脱稿したが、残念ながらコロナ禍のロックダウンのために刊行が遅れることになった。
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