研究課題/領域番号 |
18K01991
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
佐藤 俊樹 東京大学, 大学院総合文化研究科, 教授 (10221285)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 適合的因果構成 / 統計的因果推論 / 量対質 |
研究実績の概要 |
本年度は特に、(1)本研究プロジェクトの学術的成果をふまえて、社会学の従来の方法論と統計的因果推論などの最新の分析手法との連続性と非連続性を明確にして、因果推論の方法を社会学のなかに適切に位置づける、(2)それらをふまえて「量対質」の対立をこえた安定的な因果分析の枠組みを構築する、の二つを主な課題にして研究を進めた。 特に研究成果を狭い範囲の専門家だけでなく、隣接諸分野の研究者や大学院生や学生なども読者層となる媒体に成果の一部や、それらをふまえたより実践的な考察を掲載することができ、より一般的な形での成果の発信・還元を進めることができた。 佐藤俊樹「コトバの知と数量の知 百年のウロボロス」(『現代思想』20年9月号)では、マックス・ウェーバーの比較宗教社会学をとりあげて、それが適合的因果の方法論に厳密にしたがっており、それゆえ彼の社会学的研究全体もこの方法論を軸に体系的に整理できることを述べた。 佐藤俊樹「知識と社会の過去と美来」(『図書』860,862,864号)では、新型コロナ感染症のパンデミックへの対応を主な事例にして、現代の社会と社会科学がどのような状況にあるのかを素描した。今回のパンデミックは大規模感染症がもつ確率的な事象という面に対して、社会が反省的な対応を迫られた最初の事例である。偽陽性と偽陰性が第二種の過誤と第一種の過誤の問題であるように、「知る」ということは科学的には確率的な推論であるが、社会の側ではそれを受け入れられない。そのずれは社会科学の内部にもその成立以来、ずっとありつづけおり、ウェーバーの方法論はそのずれへの反省的対処の最初の試みの一つにあたることを示した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究計画書にもあるように、本研究は (a) Max Weberが導入した「適合的因果構成」の手続きを、最新の因果分析の計量手法である統計的因果推論の枠組みを用いて整理し、一貫的に体系化する。(b) (a)をふまえて、従来、もっぱら文化科学や歴史学との関連が注目されてきたWeberの社会学方法論の科学論的・思想的な文脈の広がりを明らかにして、その現代的意義を示す。(c) (a)(b)をふまえて、社会学の従来の方法論と統計的因果推論などの最新の分析手法との連続性と非連続性を明確にして、因果推論の方法を社会学のなかに適切に位置づける。(d) (a)(b)(c)をふまえて、「量対質」の対立をこえた安定的な因果分析の枠組みを構築する、という四つの目的を設定している。 このうち、昨年度までの(a)と(b)での成果をふまえて、本年度は(c)(d)を主に進める計画であった。実際にも計画どおり、専門的な研究者以外の読者ももつ媒体に、関連する成果を掲載することができた。 コロナ禍のなかで、感染抑制のために大学の教育体制を大きく変えざるをえず、それに対応する業務で多くの時間と手間をとられた。そのため、本プロジェクトに関しては一年間の延長を申請することになったが、そうしたなかでも一定の成果を発信できたことには満足している。それらの点を考慮して、一年間の期間延長をしたが、おおむね順調に進展していると自己評価している。
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今後の研究の推進方策 |
本年度は昨年度の延長なので、研究目的(c)(d)をより充実した形で実現していく。新書など一般的な読者向けの書籍を通じて、研究成果のより広範な発信をめざして、出版社との交渉中である。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナ感染症への対応に多くの時間をとられ、研究計画の遂行が遅れた。
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