研究課題/領域番号 |
18K01993
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研究機関 | 福知山公立大学 |
研究代表者 |
倉田 良樹 福知山公立大学, 地域経営学部, 教授 (60161741)
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研究分担者 |
津崎 克彦 四天王寺大学, 人文社会学部, 講師 (00599087)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 知識の内在説 / 知識の外在説 / 熟練の陳腐化 / ヒューマンエンハンスメント |
研究実績の概要 |
2021年度に実施した研究による実績として、以下の三点を挙げることができる。第一には、基礎的な理論研究として、知識、学習、熟練を主題とする人文社会科学系の文献に関するサーベイを継続実施した。本年度の研究を通じて、「知識の社会理論」の全体像を指し示す論理地図を描出する試論に到達することができた。この論理地図によれば、知識に関する人文社会科学系の諸学説は、「知識はどこに存在するか」という存在論的な問いに関わる二大潮流である「知識の内在説」と「知識の外在説」を両極とする座標軸と、「知識をどう説明するか」という認識論的な問いに関わる二大潮流である「機能主義的な説明」と「本質主義的な説明」を両極とする座標軸によって、その全体像を眺望することができることがわかった。 第二には、知識、学習、熟練に関して、人文社会科学系以外の学問分野の著作にも対象を広げて文献サーベイを行った。特に脳神経科学の近年の諸業績に着目し、人文社会科学の知見と矛盾対立する論点だけでなく、接合可能な論点にも注目して、これら業績を上記の論理地図の中に統合していく方途を探った。この結果として、脳神経科学的な知識に関する知見は、上記の知識に関する論理地図においては、「知識の外在説」に基づく「機能主義的な説明」という象限に収納することができるのではないか、という展望を得ることができた。 第三には、現代日本の労働者の熟練に大きな影響を及ぼすようになっている、人工知能の導入による労働過程の変容という現象に着目し、実証的な研究を推進していくために必要となる論点の抽出作業を行なった。研究の方向性としては、「熟練の陳腐化」仮説に立って、20世紀に確立した労働過程論を拡張していく議論だけではなく、「ヒューマンエンハンスメント」仮説に立って、熟練概念自体の無効化を前提とした知識理論の確立を目指す必要があることが明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度においては、新型コロナウィルスの感染拡大による移動制限を要する事態が続いたため、遠隔地への出張を伴う聞き取り調査の実施には大きな障害があった。そこで年初に立てた研究計画のさらなる見直しを行った。実証研究は最小限に止め、文献サーベイを中心とする理論研究に注力する方向に研究の主たる目標を切り替えた。その結果、知識と熟練に関する人文社会科学的な理論の全体像を眺望する論理地図に到達することができた。
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今後の研究の推進方策 |
次年度においては、次の二つの作業を行う。第一には、知識、学習、熟練に関してこれまで行なってきた理論研究の成果を総括する。主流派経済学の人的資本理論、マルクス経済学の労働過程理論、経営学の暗黙知理論、労働社会学のワークプレース研究などの成果と限界を整理し、本研究で到達した論理地図の有効性を確認する。 第二には、上記の理論研究の成果を実証研究に向けて活用していくために、具体的なテーマ探索の作業を行う。いくつかの職種の労働者を対象としたパイロットサーベイを行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
2021年度に予定していた聞き取り調査が、新型コロナウィルス感染症の影響で、実施できなくなった。研究の力点を文献サーベイによる理論研究に移しているため、2022年度中に全ての研究計画を終了できる見込みである。
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