2022年度は、浜岡原発と比較分析対象として、泊原発と地元自治体の関係について調査・分析を進めた。特に、高レベル放射性廃棄物処分場の文献調査が実施されていた神恵内村にも注目しながら、原発との関係性において原安全協定上の「地元」である岩宇4町村の間で相違があることを明らかにした。財政的には立地自治体である泊村が大きな恩恵を受けている一方で、産業構造においては神恵内村を除く3町村では原発立地地域に典型的な変化が見られるが、神恵内村では異なる傾向が見られた。政治的には、泊村と神恵内村で原発に親和的であるのに対して、共和町と岩内町では反原発派も見られた。また、「浜岡原発と地元合意」をテーマとした討論型世論調査を模した熟議イベントの議論データの分析を進めた。Discourse Quality Indexを応用した議論評価の結果、「理由に基づく意見」よりも、代替的なコミュニケーション様式として提起されてきた「個人的経験の語り」が参加者の意見変容に影響することを明らかにした。 研究期間全体を通じて、原発再稼働問題における「地元合意」のあり方について、調査・分析を実施してきた。浜岡原発及びその他の原発立地県で質問紙調査を実施し、地元合意のあり方に対する住民態度とそれに影響を与える要因について明らかにした。また、佐倉地区対策協議会の資料に基づき、同団体が原発に関連する地域政治において果たしてきた役割を明らかにしてきた。加えて、上記のように、浜岡原発と同様に立地自治体以外の周辺自治体が安全協定上の事前了解権をもつ泊原発についても事例調査を実施し、浜岡原発と地元合意のミニパブリクス型熟議の議論分析により、地元合意のあり方への態度変容に影響する要因を示した。これらにより、「地元合意」をめぐる歴史的な過程や住民意識についての知見を深めた点が、本研究の成果となる。
|