研究課題/領域番号 |
18K01997
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研究機関 | 長崎大学 |
研究代表者 |
田中 邦彦 長崎大学, 医歯薬学総合研究科(医学系), 准教授 (80380955)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 聴覚障害 / 合理的配慮 / 医学部 / 医学教育 / 情報保障 / テクニカルスタンダード |
研究実績の概要 |
聴覚障害医学生に関する国内・海外文献の検索を行った。特に本邦での障害者差別解消法施行後の合理的配慮を中心として検索を行ったが、高等教育機関としてだけでなく、医学部のような専門職養成分野において聴覚障害学生に対しどのような基準で合意的配慮を決定するかについての研究報告は、きわめて少ないことが明らかとなった。また、文献検索と並行して、「AHEAD JAPAN(全国高等教育障害学生支援協議会)第4回大会」、「高度専門領域における情報保障支援を考えるワークショップ」、「第50回日本医学教育学会大会」、「平成30年度日本学生支援機構合同ヒアリング」、「第14回日本聴覚障害学生高等教育支援シンポジウム」に参加し、情報収集と情報交換を行った。 本医学科に在籍する聴覚障害学生2名に対する実際の支援を行った。具体的には、新学期開始前に学生と面談を行って合理的配慮の内容を決定し、周知・実施した。障害学生支援カルテデモ版を使用して支援を実施し、カルテのアップデートを行った。同時に、電子聴診器などの支援機器の比較も行った。学期終了時に学生の面談と関わった教員のインタビューを行い、カルテの修正と聴覚障害医学生支援フローチャートのデモ版を作成した。平成30年度の終わりに、本医学科において医学科教員を対象としたFD「医学部医学科における障がい学生支援について」を企画実施し、その中で障害学生支援に直接関わった教員との意見交換を行った。これらにより、聴覚障害医学生の支援において合理的配慮を決定するためには、低学年での講義を中心とした科目の中では聴覚障害に起因して損なわれる情報の保障を中心に考える必要があるが、高学年での実習を中心とした科目の中では、専門職養成として医学教育の中で求められるテクニカルスタンダード、あるいは実技等の医学科固有の必要条件との整合性をどのようにとるかが重要であることが明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究計画として予定していた「聴覚障害医学生に対する合理的配慮に基づいた学生支援に関する情報収集」として、国内・海外文献の検索を十分に行い、現状を把握することができた。また、関連する学会、ワークショップ、セミナーに参加し、情報収集および情報交換を行うことで、他施設でどのような問題が起こっているかについて明らかにすることができた。 「聴覚障害医学生に対する学生支援とそのシステム構築を介した合理的配慮の分析」として、本医学科に在籍する聴覚障害学生2名に対する合理的配慮の決定と支援を、1年を通して実施した。具体的には、学生面談、合理的配慮の決定・実施、聴覚障害支援機器の比較、支援教員のインタビュー、FD実施と意見交換、障害学生支援カルテのアップデート、聴覚障害医学生支援フローチャート初版の作成まで実施できた。 当初、平成30年度に本邦の全医学部・医科大学を対象とした一斉アンケート調査の実施を計画していた。しかし、文献検索および学会における情報交換により、聴覚障害医学生の支援経験がある他機関が少ない現状が明らかとなったため、聴覚障害医学生支援の経験の有無を調査する一次アンケート調査と、支援経験のある機関に対しその詳細を調査する二次アンケート調査に分けて実施するよう計画を変更したため、アンケート調査は平成31年度に行うこととした。そのため、現在までの進捗状況を上記とした。
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今後の研究の推進方策 |
情報収集に関しては、引き続き国内外文献の比較と各種学会等への参加による情報交換を行う。海外の大学での情報収集として当初UCLAを予定していたが、ハワイ大学教育学部障害研究センターのロバート・ストッデン先生らが本学で講演されたことを契機に情報交換を行い、平成31年度にハワイ大学教育学部障害研究センターおよびマノア校医学部を訪問し、情報収集・情報交換を行うこととした。 本医学科に在籍していた聴覚障害医学生が1名となったため、その1名に対する支援を続けることにより、障害学生支援カルテのアップデートと聴覚障害医学生支援フローチャートの修正を継続する。聴覚障害支援機器の比較に関しては、在籍する聴覚障害学生が高学年のみとなったため、低学年での講義科目で使用予定であったワイヤレストークシステムの購入を中止し、代わりに医療用音声認識ソフトウェアを購入して支援の中で比較検討を行う。現在までの支援内容とその合理的配慮を決定する中で明らかとなった問題点について、第51回日本医学教育学会大会で発表する。 当初予定していた全医学部・医科大学に対する一斉アンケート調査を、聴覚障害医学生支援の経験の有無を調査する一次アンケート調査と、支援経験のある機関に対しその詳細を調査する二次アンケート調査に分けて実施する。特に合理的配慮決定の基準に焦点を当てて分析し、必要に応じ支援経験のある機関の訪問、見学、担当教員インタビューを行う。 本研究の目的は、「聴覚障害医学生への合理的配慮の合理性は、どのような客観的基準で判断されるべきか」を明らかにすることである。本研究により、医学科における実技等が医学科固有の必要条件、医学教育の本質であるのか否かを明確にすることが、合理的配慮の合理性を規定するために重要である事が明らかになった。今後は、その鍵となると考えられる「テクニカルスタンダード」に焦点を当て研究を進めていく。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成30年度に、当時本医学科低学年に在籍していた聴覚障害医学生に対し、グループワークを含む授業での支援のためワイヤレストークシステムの購入を予定していたが、聴覚障害以外の理由により当該学生が授業に出席できなくなったため購入を断念した。もうひとりの聴覚障害学生が高学年のため、平成31年度には新たに音声認識ソフトウェアであるAmiVoice Ex7 Clinicを購入し、臨床実習における手術室あるいはカンファレンスでの支援に使用する予定である。 平成30年度に、情報収集と意見交換のためUCLAへの訪問を予定していた。この年度に本学障害学生支援室がハワイ大学教育学部障害研究センターのロバート・ストッデン先生らを招いて講演会を行い、その後本研究についてハワイ大学の先生方との意見交換を行った際、ハワイ大学医学部への訪問と意見交換を勧められたため、平成31年度にハワイ大学教育学部障害研究センターおよび医学部への訪問を実施することとした。
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