最終年度である2023年度には、研究成果のまとめとして第55回日本医学教育学会大会でのワークショップに応募し採択され、「障がい学生支援における多様性と医療者の『適性』について考える:いったい何が問題なの?」とのタイトルでワークショップを実施した。ワークショップでは、医学部における合理的配慮の「合理性」に密接に関係する「医師の特性」について議論を行い、ここから派生する「区別」と「差別」についても言及した。また、当初の計画通り、東京医科大学の瀬戸山陽子先生他数名と共同で、障害のある医療系学生・医療者支援ネットワークを立ち上げ、ホームページを運用している。 研究期間全体では、在籍聴覚障害医学生の合理的配慮提供を主とした支援実践を通して、ロジャー、グループトーク、電子聴診器等の利用とその分析を進めることができた。同時に、障害学生支援カルテならびに聴覚障害医学生支援フローチャートを作成し、実際に使用することでアップデートすることができた。支援を実践するなかで、合理的配慮の「合理性」について学生ならび教職員が統一した認識をもつためには、海外の大学では広く公開されているにも関わらず、本邦の大学ではほとんど示されていない「テクニカルスタンダード」を、本邦の現状に即した形で策定し周知することが重要であることを明らかにした。また、医学部内で聴覚障害のみならず、多種多様な障がいや特性を持つ学生を支援する中で、色覚多様性をもつ学生や発達系の特性を持つ学生が、必ずしも積極的に支援を求めない現状を理解することができた。これらの学生を含め、全学生と教職員にとってもサポートとなるものとして、大学内でのユニバーサルデザインの普及が有効と考えられた。そのためには、実践を通してその効果を確かめるとともに、その知見を広く学内外に周知することで改善に繋がっていくと考えられた。
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