研究課題/領域番号 |
18K02003
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研究機関 | 東北学院大学 |
研究代表者 |
黒坂 愛衣 東北学院大学, 経済学部, 准教授 (50738119)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 聞き取り調査 / ハンセン病 / 家族関係 / 障害 / 原発事故による長期避難 |
研究実績の概要 |
本研究は,社会的少数者の家族成員間の“体験の共有”と,それによる関係性の再構築をめぐる問題を,ライフストーリー聞き取りと社会運動への参与観察によって明らかにしようとするものである。ハンセン病問題・部落差別問題・原発避難をめぐる問題などを領域横断的に追い,隔離や原発避難といった家族の離散/スティグマの問題をめぐって生じた当事者の家族成員間の分断/体験の共有による関係の変容の可能性に,光をあてる。 今年度の調査研究でとりわけ進展があったのはハンセン病問題である。2016年初春に熊本地裁に提訴された「ハンセン病家族訴訟」により,ハンセン病回復者とその家族それぞれからの聞き取りが実現可能になった。裁判の参与観察や,聞き取り調査が進んでいる。成果物として,ハンセン病回復者とその家族をセットにした聞き取りを雑誌「世界」(岩波書店)に連載中である。ハンセン病市民学会の分科会でのパネリストもつとめた。また単行本『ハンセン病家族たちの物語』(世織書房、2015年)の英語版としてAi Kurosaka, Fighting Prejudice in Japan: The Families of Hansen's Disease Patients Speak Outを上梓した。 もうひとつ,ハンセン病問題に地続きの問題として,旧優生保護法問題に関する調査も開始した。2018年1月に仙台地裁で旧優生保護法裁判が提訴されたことを契機に,強制不妊手術の当事者や,その家族と知り合うことができた。裁判および支援活動の参与観察を継続中である。「優生保護法とハンセン病問題」をテーマとした講座のコーディネートや,優生保護法問題の学習会を開催した。 また,原発事故により長期避難をよぎなくされた地域(福島県富岡町)でのフィールドワークを実施した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
熊本地裁でのハンセン病家族訴訟の期日が定期的に入り,そこに足を運ぶことで,ハンセン病家族やその回復者と知り合い,聞き取り調査をすることが可能になっている。以前は知り合うことのできなかった,療養所附属保育所で育った人々や,草津の湯之沢部落で生まれたという家族などにも出会うことができた。回復者と家族をセットにした聞き取りもこれまでに10ケースまとめている。また裁判の経過そのものの参与観察も行なっている。ハンセン病問題については,きわめて順調である。 優生保護法問題についても仙台地裁での裁判が進行中であり,毎回の裁判および報告集会の参与観察を進めている。また原発避難の問題でも,フィールドワークを実施し,当事者との関係を良好に保つことができている。このように調査研究の日程が順調に入っていったことと,いくつかの調査研究で共同研究者の旅費を負担したこともあり,9月末には予算をほぼ使い切ってしまった。 以上のことと表裏の関係になるが,申請書記載の段階で考えていた部落差別問題や性的マイノリティ問題については,科研費の予算を使用しての調査を行なうことはできなかった。
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今後の研究の推進方策 |
ハンセン病家族訴訟については2019年6月末,旧優生保護法裁判については2019年5月末に,それぞれ地方裁判所の判決が出される予定である。ハンセン病問題については,(1)家族訴訟の裁判の経過と,(2)ハンセン病回復者と家族をセットにした聞き取り調査の成果について,学会報告か,論文か,書籍か,いずれかのかたちで発表したい。 旧優生保護法の問題については,現時点では当事者からの聞き取りというのは難しいため,まずは裁判の参与観察に徹したい(仙台訴訟の第二陣,および北海道や東京などでの裁判は続く予定である)。 まずはハンセン病問題と旧優生保護法の調査研究を優先し,原発事故避難をめぐる問題・部落差別問題・性的マイノリティをめぐる問題についても機をみて調査を広げたい。 並行して,療養所附属保育所についての資料収集のほか,マイノリティ家族成員間の関係をめぐる先行研究の収集も進める予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額は「15,800円」である。旅費や物品費,謝金として使うには中途半端な額であったため,残金となった。次年度の調査研究も旅費が多くかかることが予想され,使用可能な額である。
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