人間社会における格差と絆という、最も根本的かつ相容れないことがらについて、質問紙法に基づく調査を実施することで研究を行った。得られる知見を念頭に置いて分析を想定すると、対照的な地域を選定することで、比較分析での地域差でのコントラストが強まることが可能性として考えられる。一般的な知見を志向する場合、多様な地域での相対的な比較が重要となる。そこで、これまでに蓄積した調査データの整備を進めつつ、本研究では郵送調査を実施し、地域比較を行うことで知見の一般性を高める試みを行った。継続してきた郵送調査と、本研究の郵送調査のデータ整備により、一つの研究室の規模で行う規模としては大規模な地域比較研究の礎を築いた。実際の効果や意義は今後明らかになるとして、研究の恣意性へ自戒を込めつつ、データや現実とのやり取りを常に意識する形で、調査分析を進めた。 一方、2020年からのコロナ禍により、社会は大きく変わった。オンライン待機・業務対応は恒常状態であり、研究・教育・業務において ITサポートの占める比重が飛躍的に増加した。表立って目立たなかった社会や身の回りの様々な社会的矛盾も表面化し、正当性を語る言葉と実際の行動の大きな乖離も鮮明化した。人間社会における格差と絆のあり方を探る研究としては、普遍的でマクロな社会現象に焦点を定め、希釈する形で客観的分析を行うのが行儀のよいアプローチである。データの利用可能性が、計量的手法の適用範囲を、暗黙のうちに制限してきたことも否めない。手法の進展や技術の発展により、適用範囲は拡がりつつある。非情な非常事態を経て噴出した矛盾に遭遇することで、権力、支配、搾取、一部の者に対してのみ重くのしかかる貪欲な制度の局所的適用など、人間と社会、研究の根本的意義を見つめ直し、格差と絆に関して研究が発展する契機となった。 今後も探求と模索を進め、社会への実質的で着実な寄与を心したい。
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