本研究の目的は、性や生殖のコントロールに焦点を当てることで、アメリカ占領下の日本における「女性解放」政策の歴史的意義を再評価することにある。その際、中絶や断種/不妊手術をも含めた生殖コントロール技術をめぐる政策を検討することによって、占領下でどのような「家族」が規定されたのかを検討する。 2022年度までの研究においては、特に、(1)親として相応しくない素質の定義=誰を断種/不妊手術の対象としたか、(2)家族形成するに望ましくない層の定義=誰を避妊(受胎調節)推進の対象としたか、(3)生まれるべきでない子の定義=誰を中絶の対象としたか、という3つの側面に注目し、これに対するアメリカ占領軍(GHQ/SCAP)の政策方針やアメリカ資本によるフィランソロピー事業の影響を明らかにしてきた。 2023年度は、これらが優生保護法に規定された日本側の経緯と、それに対するGHQ/SCAPの修正指示を、世界的に展開した優生運動とグローバルな人口政策という大きな枠組みのなかで理解することで、グローバル史における優生保護法の位置付けを評価する研究を進めた。特に、アメリカ、オーストラリア、韓国からの研究者を日本に招き、「優生保護法のグローバル史」という国際シンポジウムを主催し、さまざまな研究者と広く研究交流したことによって、優生保護法を中心とした戦後日本における生殖の管理政策を、戦後のグローバルな動きのなかでどのように位置付けるのかについて検討を加えることができた。また、日本側における日本政府以外のさまざまなアクターの動きや、日本の優生保護法を「モデル」とした沖縄(琉球政府)の動きとそれに対する琉球列島米国民政府(USCAR)の対応(廃止後の動きも含めて)についての詳細を調査することで、日本の優生保護法がなぜ占領下で成立し得たのかにある程度の見通しがついたことも成果といえる。
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