2023年度は、台湾、北海道、福島、佐賀、茨城、宮城においてフィールドワークを実施し、反原発運動の関係者や自治体の財政担当者にインタビューを行ったほか、図書館等での関連資料の収集を行った。また、11月に横浜市(関東学院大学)で開催された第9回東アジア環境社会学国際シンポジウムにおいて報告(Pathways to Nuclear Oases: Three types seen in Japan)を行った。2018年度からの研究期間の全体においては、 1冊の編著および4本の研究論文の発表と 11回の学会報告を行った。これらの研究業績により、主に、原子炉の廃炉が立地自治体に与える影響や、税収効果の立地自治体の原子力オアシス化への寄与、投票行動にみられる原子力オアシス化の動向などの解明を行った。原子炉の廃炉は、一部とはいえ立地自治体に大きな影響を与えている。複数の炉が稼働していれば点検作業に伴う経済効果が通年化されていたが、稼動炉数が減少により季節的な効果にとどまるようになり、事業を維持できない業者が出てくるからである。一方で長年にわたり継続してきた税収効果は、立地自治体を着実に原子力オアシス化してきた。そのオアシス化は、北海道の自治体を事例とした国政選挙および知事選での投票行動の分析から、原発の運転開始から概ね10年のあいだに進展していることが明らかとなった。立地自治体である泊村や、隣接自治体で高レベル放射性廃棄物最終処分場の誘致に乗り出している神恵内村での、原発を推進している政党である自民党の候補の得票数が、周辺の他の市町村と比べて多くなる傾向がみられたのである。
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