改正貸金業法(以下、法)の背景・経緯・帰結に関する研究成果を、米国経済史の研究者グループとの共著書においてまとめることができた。日本の過剰債務運動に特有な「被害」概念や過剰債務者による告発型の自助組織(いわゆる「被害者の会」)は、公害や冤罪に関する弁護士ネットワークの伝統から発展的に生み出された。この「被害」概念は、弁護士や司法書士等の専門職による異業種間連携と過剰債務の可視化(体験談、告発、報道)を促し、過剰債務を、貸金業による「高金利」「過剰貸付」「過酷な取立」による複合的な被害と捉える認識の社会的普及をもたらした。さらに、「被害」概念は状況によって変動し、目的志向的な制度を支える社会のリアリティや力量の程度によって「過酷な取立て」→「高金利」→「過剰貸付」の順で受容されたことが明らかになった。これらの知見は、国内外の学術誌や民間団体の報告書にまとめられた。以上の内容は動画教材としてもまとめられ、教育機関で活用された。 法制定は東アジアの過剰債務や社会運動にも影響を与えている。金融市場のグローバル化を背景に「金融被害の国際的な広がり」や「労働・生活保障問題の進行」などの共通する複雑化した諸課題に対応するための「プラットフォーム」の形成などの観点から、東アジアでの過剰債務をめぐる学術・市民活動も調査した。これらに関する知見は国内の学術大会や民間団体の研究会で発表した。 一方、法の「意図せざる帰結」としては、逸脱の制度的解決による「専門職主導」や「当事者不在」の問題が指摘できる。職能団体による包摂力の低下、スマートフォーン等のインターネットを活用した地域横断的な集客や非対面型の介入、専門職界における過当競争や被用者化などの環境変化はこれらの動きを加速させている。法制定にかかわった支援実務者界を中心とした各界の動向と相互関係のさらなる変化の観察と分析が今後の研究課題である。
|