申請者は本研究において若年世代、子育て世代の転勤のある働き方が家族形成やカップルの紐帯に与える影響を質的研究と量的研究の両面から考察してきた。最終年度は、子育て世代の転勤のある働き方に関する量的調査研究である「現代日本における『夫の転勤』が妻の育児孤独感や希望子供数に与える影響‐因果媒介分析の4分解法を用いた分析」の論文を作成した。本論文は、申請者が2016年に実施したアンケート調査のデータを「転勤群」、「非転勤群」の2群に分け、「妻の育児孤独感」を媒介変数に、妻が当初の希望子供数を持てないリスクを高めているかどうかを反事実モデルに基づく4分解法によって分析したものである。転勤は妻のワンオペ育児による育児孤独感を高め、その結果、希望していた子供数を持たないリスクを高めていることを明らかにした。また、子育て世代の転勤のある働き方に関する質的調査において、さらに2人のインタビューを追加実施した。本研究の中では合計24名にインタビューを実施し、すべてのトランスクリプトを作成を終え、現在論文を執筆中である。さらに、これまで実施した若年世代の転勤のある働き方に関する量的調査の研究発表も行った。また日本的雇用システムにおける「転勤」がカップルの性別役割分業を強化することでシステム自体を再均衡化する役割をになっているという問題意識から、本研究では企業組織にケアの視点を入れるにはどうすべきかについても検討してきた。そこで男性の育児ケアに関する歴史研究や男性の育児休業に関する研究も実施し、論文を作成した。研究期間全体としては、量的調査に関する3つの研究、質的調査に関する2つの研究(作成予定)を実施することができ、それらを基に「日本的雇用システムにおける転勤は何だったのか‐ジェンダーや家族形成の視点から‐」としてまとめることが可能となる研究成果を上げることができた。
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