研究成果の概要 |
本研究は,日本的雇用システムにおける「転勤」をテーマに,子育て世代、若年世代における「転勤のある働き方」が家族形成や夫婦の紐帯,女性のキャリアなどにどのような影響をもたらしているかを混合研究法によって分析し,考察したものである。研究結果から日本の転勤は、日本的雇用システムと性別役割分業を前提に平均的に2,3人の子供を持つ「近代家族(男性稼ぎ主型家族)」を維持させる重要な役割を担ってきたことを示す。しかし同時に1990年代以降の景気不振と子育ての個人化の中で生じた転勤による孤独な子育てがこの家族を揺らがせつつある状況も示した。
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研究成果の学術的意義や社会的意義 |
本研究は,日本的雇用システムにおける転勤とは何だったのかをジェンダーや家族形成の視点から問う内容になっている。コロナ禍のテレワークの普及がきっかけでようやく企業において転勤の見直しをする動きが始まったが,1980年代,一度,社会問題となった転勤や単身赴任がなぜ日本において長い間維持されてきたのか,本研究はその理由を転勤が日本的雇用システムと近代家族の維持に重要な機能を果たしていたことから明らかにする。これからの日本の雇用システムになおジェンダーや家族形成の視点を欠けば,転勤の見直しも失敗し,今度は少子化に直結することを示唆する。今後の日本の雇用システムを考える上で重要な視点を提供する。
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