研究課題/領域番号 |
18K02021
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研究機関 | 沖縄大学 |
研究代表者 |
宮城 能彦 沖縄大学, 人文学部, 教授 (40229810)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 共同売店 / 共同体 / 近世沖縄村落 / 近代沖縄村落 / 共同体の現在 |
研究実績の概要 |
1906年に国頭村奥に誕生した「共同売店」は、これまで、社会の資本主義化、地域の貨幣経済化に、近世以来の沖縄の「共同体」が対応するために作られたものだとされてきた。研究代表者自身もこのような論を展開してきた。しかし、これまでの研究から、「共同体」が共同売店をつくったのではなく、むしろ、共同売店を運営していく中で、近代以降の「共同体」が作られていったのではないかという仮説を立てるに至った。本研究においては、それを実証すべく、奥共同店その他の新たな史料の発掘、共同体の特質や共同売店と共同体のかかわりについての聞き取り調査、地域間の比較、を行ってきた。 平成30年、31年(令和元年)度においては、主に聞き取り調査、令和2年度においては、文献調査を中心に行ってきた。その中間報告的なものとして、書籍『共同売店の新たなかたちを求めて』に「期待概念あるいは自己投影としての沖縄村落共同体および共同売店研究」を掲載した。この中では、「もし、近世期における沖縄の村落は、「単に祭祀的な結合体であって、経済的な意味合いが極めて低く、また非政治的村落」(来間,1998:104-105)であるとすれば 、あるいは、杣山が、「役人の監督が離れれば濫伐と放置が生ずる危険性を常に内包しており、管理制度が村落レベルで自主的に実践されていたのか疑わしい」(上地,2014:20)ものだとするのならば、例えば奥の共同店が、「資本主義経済化への共同体の防衛」として当初から機能していたとは考えにくくなる。」という仮説の展開を示した。 また、奥のシシ垣の設営と管理運営が、近代の共同体を形成していく重要な契機となったのではないかという仮説も設定した。今後は、それらの仮説の実証を目指していく。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
令和元年度においては、体調不良、令和2年度においては、新型コロナの影響で、計画していた調査にほとんど行けていない。そのために、研究自体も遅れ、一年の延長を申請して承認された。 その一方で、文献調査は順調に進んでおり、その整理を現在行っているところである。 調査に関しては、コロナが落ち着き次第、すぐに取り掛かり、遅れを取り戻していく予定である。
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今後の研究の推進方策 |
中間報告である「期待概念あるいは自己投影としての沖縄村落共同体および共同売店研究」においては、「最近の沖縄をフィールドとした調査・研究の特質は、かつての村落構造分析研究とは方法論的にも問題関心的にも直接的には繋がらず、それぞれの研究テーマにおける一つの事例として扱われていて、そこに日本本土やアジアの村落や地域社会との比較という視点が直接的には見られず、アプリオリに「過酷な歴史」「強い共同性」「自治意識の高さと」といった沖縄村落共同体像が使用されている感がある。そのために「沖縄的」という言葉があまり洗練されることなく流通していると感じるのは私だけであろうか。 しかしそれは、共同体論・共同体研究の全体の流れの中の沖縄における同様な傾向なのかもしれない。北原が『共同体論は、各レベルで、実態分析的概念よりも、規範・理念に基づく運動論、政策論的概念へと傾斜してきた。それらの構成要素には、社会関係だけでなく、権威=権力関係、ポリティックスを含むといった議論もふえた』(北原淳,2007: 156)と指摘したように、沖縄村落研究もその流れの中にあるのだろう。」 「沖縄という地域は様々な意味や視角から社会学者にとってテーマの宝庫であることは間違いないようである。しかし、だからこそ、問題の設定の時点で調査者の価値観・思い入れが顕在的・潜在的に入り込んでくることに対する意識も重要となってくる。ただし、このような指摘すらも既に多く語られてきたことであり、(略)沖縄を研究するということは、このような複雑で煩わしい作業と向き合うことなのかもしれない。」という問題提起を行った。今後は、その問題提起に自ら答えるべく、沖縄の共同体イメージの形成の過程を明らかにし、新しい視点からの共同体論の構築を目指していく。
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次年度使用額が生じた理由 |
2020年(令和2年)度においては、コロナによる出張制限によって、調査に行くことはほとんどできなかった。非常事態宣言が解除された時に、西表島および国頭村奥にのみ調査することができた。ゆえに、調査報告書を作成することもできず、一年の延長願いを提出し認められた。 したがって、令和3年は、未実施の調査(国立公文書館、国立歴史博物館、奄美大島、宮古島)を行う計画である。また、神戸における研究会への参加も予定している。 最終報告として、印刷物を作成する予定である。
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