研究課題/領域番号 |
18K02023
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
祐成 保志 東京大学, 大学院人文社会系研究科(文学部), 准教授 (50382461)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | ハウジング・マネジメント / 契約モデル / 社会モデル / 居住支援 / サービス |
研究実績の概要 |
当該年度は、半年間、英国のブリストル大学に客員研究員として滞在する機会を得た。このため、研究計画のうち、国際比較、とりわけ英国のハウジング・レジームとの比較に注力して研究を進めた。その際に注目したのは、19世紀以降の英国で独自に発展した「ハウジング・マネジメント」という概念である。日本では、住宅管理はもっぱら不動産の管理を指している。しかし英国の公共賃貸住宅に関わる文脈では、ハウジング・マネジメントに、住宅の物的・金銭的な側面だけでなく、居住者である人に対するサービスが含まれており、一種のソーシャル・ワークとして理解されている。 英国では、ハウジング・マネジメントについて、「社会モデル」と「契約モデル」が対比されることがある。社会モデルは、住宅という資源の配分の公平性に重きを置く。他方で、契約モデルの関心は経済的な価値に集中する。1980年代以降、自治体が直接に供給する公営住宅から、住宅協会への移管が進んだ。住宅協会は民間非営利セクターに属するものの、積極的に民間資金を受け入れ、住宅開発業者としての性格を強める団体もあらわれた。こうした転換は「契約モデル」の優勢をもたらした。住宅供給システムの再編に伴い、ハウジング・マネジメントとは何かという問いが、くり返し提起されてきた。 日本では、社会政策との関連でハウジング・マネジメントが問題とされることはほとんどなかった。しかし、2000年代以降の住宅政策では、「居住支援」という概念の導入にみられるように、対人社会サービスが一つの焦点となっている。英国との比較から導き出されるのは、日本社会において、ハウジング・マネジメントのかなりの部分が家主/借家人、親族、近隣といった社会関係において潜在的に遂行されてきたが、その条件がみたせなくなっているがゆえにサービスの顕在化が図られている、という仮説である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
海外に滞在することで、国際的な学術交流を通じて比較研究が進展したことは、当初の研究計画では予期していなかった成果であった。「研究実績の概要」に記したアイデアの一部を国際学会で報告したところ、各国の研究者から貴重なコメントが得られた。報告内容をもとにした論文は、国際学術誌に掲載された。 この他、英国の社会調査史において重要な位置を占めながら、日本ではほとんど知られていない1930年代の「大衆観察運動」(Mass-observation)について資料調査を行い、日本の「考現学」との共通点を明らかにした。また、日本の住宅研究の源流と言える1940年前後の建築学者・西山夘三の研究活動を再検討した結果、国際的な同時代性のみならず、社会学者(奥井復太郎の住宅・都市計画論)との接点を見出すことができた。これらは、居住に関わる制度と知の形成過程を明らかにすることを目指す本研究課題にとって、大きな前進であったと考えている。 以上の理由から、「当初の計画以上に進展している」と判断した。
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今後の研究の推進方策 |
日本のハウジング・レジームがどのような過程を経て形成されたのか、そしてそれが福祉制度とどのような関係にあるのかを明らかにすることが、本研究課題の目的である。今後は、英国との比較から示唆された潜在的なハウジング・マネジメントの歴史的な形成過程とその条件の解明に焦点を定める。住宅とソーシャル・ワークを関連づける発想は日本にも存在したが、きわめて微弱なものであり、英国のような複合的なハウジング・マネジメントが住宅政策の内部に根づくことはなかった。本研究課題では、狭義の住宅供給をこえたハウジング・レジームという枠組みのもとで、地域社会と職場における組織化にまで視野を広げてハウジング・マネジメントという活動を定義し、その歴史的な展開を明らかにする。このような作業を通じて、住宅研究と都市・地域社会学、福祉社会学との接続が可能となる。
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